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ネット作家・宵トマトの多彩な世界をご紹介します


by rhizome_1
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空の饗宴(23)

「<聖地>に選ばれるには、条件が必要なのですよ。」
<プロフッサー神村>は語る。
「<ニッポン国>の『皇国記』を読んでいますと、初代皇帝の時代、つまり新石器時代に<巨石遺跡>が作られたという記載が多く見られます。これらの<巨石遺跡>では、祝祭目的の集会が開かれていたと考えられます。巨石は神社のご神体であったと考えられますが、神社の方はなくなり、巨石だけが残っているケースも多いようです。他に、山自体がご神体となっているケースがあり、<神奈備山>と呼ばれています。
信仰の対象としての巨石や山は、コスモロジーの中心軸として作用し、その周りに聖なる空間を現出させます。人々は、これらの巨石や山に向かうことで、自らの意識を、俗なる世界から聖なる世界に至らせることが出来ます。つまり、これらは民族の記憶をチャージしておく記憶庫としての役割を果たすわけです。
ところで<巨石遺跡>と<神奈備山>の所在地を、<ニッポン国>の地図に描きこむと、一定の法則が見えてきます。これらの<聖地>は、一辺48.2kmの正三角形二つ分の菱形になるということです。
西欧ではアルフレッド・ワトキンスという人が、<聖地>を結んでいくと一直線になることを発見し、ライン上に<レイ>という名前がつく地名が多いことから、<レイ・ライン>ということを主張しています。<レイ・ライン>は、東洋の<風水>の用語で置き換えると、<龍脈>となります。
<ニッポン国>の代表的な<レイ・ライン>には、「太陽の道」と「御来光の道」があります。「太陽の道」とは、<ナラ・シティ>の長谷寺、三輪山、桧原神社、国津神社、箸墓を結ぶ直線のことであり、「御来光の道」とは<チバ・シティ>の上総一の宮、<カナガワ>の寒川神社、<シズオカ>の富士浅間神社、富士山頂、七面山、 竹生島、大山、日御崎神社を結ぶ直線のことです。
<レイ・ライン>は、一説によると太陽の動きと関係があり、これらの<聖地>は暦作成のための観測地点であったとされます。しかし、それだけでは説明のつかない地点が存在します。
<風水>では、<龍脈>という言葉で、大地のエネルギーの流れを示します。<龍脈>によるエネルギーが流れ込んでいる地域は栄え、この流れが切断されるとその都市は衰退します。
私は<聖地>の選定に関しては、人間が<変性意識状態>に成りやすいか、どうかということが絡んでいると考えています。まだ、確定的なことはいえませんが、私の調べでは、<聖地>と言われる土地では、重力や地磁気の異常が見られるようです。これによって、幻覚や幻聴が発生しやすくなるということです。
ところで、<sion>さんは、<ニッポン国>では古代王朝では、<霊的国防>ということを意識して、<風水>でいう<四神相応>に則った首都造りをしたことはお聴き及びかと思います。古代の首都の選定に関しては、<龍脈>によって大地のエネルギーが流れ込み、さらには鬼門や裏鬼門から外敵が侵入しないように万全の体制が取られました。そのために、お抱えの<陰陽博士>が活躍したのです。そして、現在の<エド>に遷都される際も、<霊的国防>のための魔方陣が組まれたのです。
<sion>さんが言われるように、闇の勢力が活動し、この<ニッポン国>を虚無の世界に沈めようとしているならば、彼らは、まずこの<霊的国防>を破壊しようとするでしょう。つまり、<龍脈>の切断です。」
「それは何によって。」
澱みなく語り続ける<プロフェッサー神村>を、<sion>がさえぎった。
「そうですね。私がその立場でしたら、さしづめ、地震でも引き起こすでしょうか……。」
銀縁眼鏡の奥で、<プロフェッサー神村>は静かに微笑んだ。
この男は、黒魔術勢力ではない。しかしながら、地震を起こす方法も、知っているというわけか。<sion>は、男の表情から、そう判断した。
# by rhizome_1 | 2004-10-18 20:36 | 創作

空の饗宴(22)

例えば、国家社会主義者が戦争を策動するのは、国家という価値を信じているからだ。彼らは、<私>という価値よりも、<公>の価値を優先させる。
その結果として、国家のために、生命を散らし、殉じた人々を美化し、褒め称える。
前世紀、<ドイツェ帝国>に現れた<アドルフ>という独裁者は、民族浄化を唱え、優生政策を推し進め、ついには<ユダ民族>の殲滅を企てた。<アドルフ>によると、<ユダ民族>よりも<ドイツェ民族>が優れているのは、<ドイツェ民族>は国家という美徳のために、自らの生命を絶つことができることでもわかるという。
この類いの人物は、今世紀の<ニッポン国>にも存在する。
<ゴーマニスト>を自称する或るデマゴーグは、先の世界大戦で、<公>のために<私>の生命を犠牲にした特攻隊員を褒め称え、<ニッポン民族>の優秀さは、エゴイスティックな私心を超え、全体のために殉じる高度な倫理性によって証明されるとしている。
現在の<ニッポン国>の権力の中心にいる<KOIZUMI>もまた、自身が世界を統べるものに生成変化することに、陶酔するタイプの人間である。
<アドルフ>の場合、自身の組織した秘密警察によって、<ユダ民族>を問答無用で逮捕し、ガスかまどの中で青酸ガスを吸わせ、抹殺することに、甘美な喜びを感じていた。
<KOIZUMI>の場合も、自身の組織した刑殺によって、自身の敵対者や、不要と認めた者を、超法規的に逮捕し、法的な適正手続きなしに、口を塞ぐことに、非常な誇りを感じていた。
彼らは、自身の殺人行為を<善>であると確信し、自身の虐殺行為を<実践理性>に基づく<倫理的行為>であると考えていた。彼らは、自身の思考を<完全>であると考えていたから、自身の思考を疑うことをしなかったし、<疑問>を投げかけてくる他者は、ことごとく<抹消すべき他者>として認知した。
だが、私が世界を終わらせたいのは、<国家>のためでもないし、ましてや死んでから久しい<神>のためでもない。
私は<虚無>のために、世界を破滅に陥らせたいのだ。
私に言わせれば、<アドルフ>も<KOIZUMI>も、まだまだ甘い。彼らは守るものがあるだけ弱いのだ。
私は、世の中のありとあらゆる<美徳>を侮蔑している。<美徳>などというものは、弱者が強者から身を護るためにつくったフィクションに過ぎず、そこには弱者の強者へのルサンチマンが隠されていると考える。
国家社会主義者、要するに全体主義者の<国家に殉じるという美徳>も、魔瑠苦棲主義者の考える<歴史的使命に殉じるという美徳>も、キリスト教徒の考える<神に殉じるという美徳>も、ことごとく現実世界に生きる能力のない弱者が捏造したフィクションに過ぎないと考える。
私は、一切の総破壊の果てに、何かを残そうとは考えない。
<国家>も<神>も……<畜群道徳>など糞食らえだ!
手始めに<ニッポン国>を、暗黒に落とす!
<ゾンビ戦隊デンジャラス>と<ニコラ・テスラの装置>を使って、龍脈を破壊し、大地の生命を奪う!
<くらやみ男爵>の計画は、着々と進行しつつあった。
# by rhizome_1 | 2004-10-06 10:26 | 創作

空の饗宴(21)

時間を停止させた部屋の中に、<くらやみ男爵>が忍び込んだ。
ここは、新進アーティストの<与太郎>の部屋である。<与太郎>の作品は、フィギュア製作を軸に、CG、小説、音楽など多岐に渡っているが、共通するコンセプトがある。それは、シミュラクル(模造)ということである。現実そっくりのシミュラクル(模造)を造り、いつか現実をまがい物で差し替えてしまうこと。「悪貨は良貨を駆逐する」、それと同じように「シミュラクル(模造)が、現実を侵食する」のだ。アーティスト<与太郎>のライバルは、万物の創造主である<神>であった。
先ごろ行われたアーティスト<与太郎>の個展のパンフレットの冒頭には、<与太郎>自身の言葉が書かれている。
「芸術のねらいは、<神>によってなされた創造を改めることである。<神>によってなされた創造が、完全であるならば、芸術のつけ入る隙はない。芸術家は、<神>による創造を改めることで、<神>に反逆する。芸術家は、すべからく悪魔主義者でなければならない。」
悪魔主義者!果たして<与太郎>は、なにを契機に悪魔主義者に変貌したのだろうか。ひとつには、このパンフレットにも書かれているように、澁澤龍彦の『夢の宇宙誌』と竹本健治の『ウロボロスの偽書』の影響もあっただろう。澁澤龍彦の『夢の宇宙誌』は、西欧のエロティシズムやオカルティズムを主題とした異端の文学や思想を基に、美しい宇宙像を構築しようとする試みであり、竹本健治の『ウロボロスの偽書』は、現実と虚構の境界線が崩壊し、現実の絶対的な基盤が失われる世界を描く試みである。しかし、それらの影響だけで<与太郎>は、悪魔主義者に変貌したのだろうか。答えは否である。
アーティストとしての<与太郎>は、決して苗字を名乗らない。たまに苗字を知っている美術評論家が、苗字で呼ぶと、酷く激怒するという。しかも、<与太郎>という無頼派を伺わせるアーティスト名である。私もよく知らないのだが、<与太郎>の生家は、<ニッポン国>のさる有名な伝統芸術家の家であり、彼の父親は<家元>と呼ばれる身分であったという。彼の反逆は、この父親に対するものであったと推測される。
だが、<与太郎>の悪魔礼拝は、<くらやみ男爵>につけ入らせる原因となってしまった。
この<くらやみ男爵>は、<宗像冬貴>の思いついた奇想を、<与太郎>を通じて実現させようとしていた。<与太郎>は、現実の人間と見間違えるほどに精巧なフィギュアを造ることができるアーティストである。<与太郎>が精巧であることにこだわるのは、精巧であればあるほど、<神>の造った世界への侮蔑になると考えていたからである。だが、<与太郎>の限界は、このフィギュアが未だ動かないことである。<くらやみ男爵>は、<与太郎>のつくったフィギュアに、<月の魔術>をつかって生命を吹き込むことである。
<宗像冬貴>の思いついた奇想とは、<ゾンビ戦隊デンジャラス>である。B級小説家ならではのアイデアである。<与太郎>のつくったフィギュアは、本物の人間ではない。ぼろぼろになるまで、生命を吹き込まれる度に、甦ってくるはずである。それを何体もつくり、戦隊を組ませるというのが、<宗像冬貴>が頭の中で<アリョーシャ>を殺害するために考えた妄想である。<宗像冬貴>は、憎んでも憎み足りない相手を、そうやってなんども頭の中で殺害するのを隠微な愉しみとしていたのである。
<くらやみ男爵>は、時間を停止した部屋の中で、作業を開始した。まずは<与太郎>のつくったフィギュアに、霊力を及ぼし、生命を与えること。次に、<与太郎>の記憶をいじくり、これらのヴァージョン・アップされた人形を、自身が作ったと思い込ませること。また、<与太郎>には、今後人形つかいとして行動して貰わねばならないから、攻撃目標もインプットしておく必要があるだろう。
静止したものを動かすには、精霊AGREASを召還すればよい。AGREASの別名は、AGARES公爵。彼は鰐に乗り、こぶしの上に大鷹を止まらせて、美しい老人の姿で現れる。かつて力天使の階級にあり、31の霊の軍団を支配下においている。彼の力を持ってすれば、死んだフィギュアに生命を与えることや、地震を起こすことなど、朝飯前である。また、霊的なものであろうと、世俗のものであろうと、位を破壊する力も有しているという。
「<宗像>の攻撃目標は、<アリョーシャ>だったようだが、あくまでも私の目標は世界を終わらせる方にあるんでね。大いに愉しませてもらうよ。うひゃひゃひゃひゃ。」
<くらやみ男爵>の下品な笑い声が、時の止まった黄昏の世界に虚ろに響いた。
# by rhizome_1 | 2004-09-26 17:39 | 創作

空の饗宴(20)

<鷹里>くんと、肌を重ねる。
<鷹里>くんの体は冷え切ってしまっている。裸で抱きしめる以外に、お馬鹿な私には、<鷹里>くんの体温を取り戻す方法が思いつかなかったのだ。
男の体で<鷹里>くんを抱きしめることは、抵抗がないわけではなかったが、私は<鷹里>くんを目覚めさせるためならば、どんなことでもするつもりだ。
ごつごつとした節くれだった手で、意識を失ったままの<鷹里>くんの顔をなぞってゆく。
私は<鷹里>くんの美形の顔が好きだ。いつも心の中で、<鷹里>くんをうっとりと眺めていた。<鷹里>くんにいつもイジワルな態度をしていたのは、そういう自分をさらけ出すことに照れがあったせいだ。現在の自分は、女の体だった頃に、<鷹里>くんをあいせなかったのが悔しい。しょうもない羞恥やプライドのせいで、貴重な時間を無駄にしたのだ。
<鷹里>くん、死なないで!
早く、目覚めて!
私の体温をすべて<鷹里>くんに捧げつくすように、愛撫を行う。<鷹里>くんの体を、KISSで埋めつくすのだ。
私の愛撫は、私の快楽のためではなく、すべては<鷹里>くんの命を蘇らせるためのものだ……だが、なんということだろう……次第に汗ばんでゆく体の感覚のせいで、私の体が反応し始めている……これが男の体の反応というものなのだろうか……けがらわしい<I 刑殺官>の体が反応しているのだ……私の心が<I 刑殺官>の体のせいで穢されてゆく……知りたくない……こんな快楽など、知りたいとは思わない……私が<鷹里>くんと肌を合わせているのは、<鷹里>くんの命をつなぎとめるためであって、私のエゴのせいでは決してない……決してないはずなのに、<I 刑殺官>の男の体から、欲望がつきあげてくるのをかんじる……予想以上の快楽に、私の精神は焼き切れそうになっている……こんなはずじゃなかったのに。
<I 刑殺官>の記憶を探る……眼を背けたくなるような光景が広がる……なんてことなの……この人は女性をどう思っているのかしら……しんじられない……どうしてこんな男の体の中に、私はいなくちゃならないの……だが、あんなことをしなければ、途方もない<I 刑殺官>の過剰な欲望は、危険な方向に暴発することは眼にみえている……<I 刑殺官>の欲望を、ひとりの女性が受け止めるなどということは不可能だ……だから……ああ、私は何を考えているのか……。
<鷹里>くん、ごめんね。私、<鷹里>くんに欲情し始めているのかもしれない。
こころが、壊れる……。
そのとき、<鷹里>くんが、目を開けた。先ほどまで、冷たくなっていた体に、赤みがさして来た。
だが、<鷹里>くんは私を見るなり、怯えた表情をして、部屋の片隅に逃げた。無理もない。裸のマッチョな男が<鷹里>くんに乗っかかっていたのだから。
<鷹里>くんは震えて、歯をガチガチ音を立てた。そして、服を脱がされた自分の体を、確かめるように見ていた。自分の身に何が起きたのか、不安に思っているのだ。
「<鷹里>くん、私は……。」
ああ、どうしても男の太い声しか出ない。だが、この声で信じてもらうしかない。
「私は<Keen>よ。信じてもらえないかも知れないけど。あの緑色の怪物と融合した私は、霧状になり、<I 刑殺官>の体を乗っ取ったのよ。だから、こんな体をしていても、心は<Keen>なのよ。そうでなきゃ、あなたを助けたりはしない。」
私は涙を流していた。
<鷹里>くんは、驚愕の事実をつきつけられて、パニックに陥っているようだ。
「ぼ、ぼくは<Keen>を殺した。」
「だけど、こうして生きているのよ。男の体になってしまったけれど。」
「す、すまない。許してくれ。ぼ、ぼくは、君が邪魔になった。自分を正当に評価してくれないと苛立っていた。本当は一番評価してほしかっただけなのに。」
<鷹里>くんは、まるで亡霊を前にしたように、私にひれ伏した。
「<鷹里>くんに殺されたときは、哀しかったけれど、これは私が自分の気持ちに素直になれなかった当然の報いなのよ。今ならば、勇気をもっていえる。本当は、私、<鷹里>くんのこと、大好きだった。もはや、遅すぎたかもしれないけど。」
涙がとめどなく流れ、顔がぐしゃぐしゃになる。繊細な神経の欠如したような筋肉男が、声をあげて泣き始めた。
そんな私に<鷹里>くんが近づき、私の頭を抱えて、ほおを摺り寄せてきた。
「遅くはないよ。君をこんな体にしてしまったのは、ぼくの責任だ。最後まで君を引き受けるよ。愛してる、<Keen>。」
そういって、<鷹里>くんは、私にディープ・キスをしてきた。こうして、ふたりの男女が、男同士の体を介して愛し合うに至った。人には言えないことだけど……人には決して言えないことだけど……。
# by rhizome_1 | 2004-09-16 21:32 | 創作

空の饗宴(19)

<鷹里>くんは、気絶している。死ぬ思いをしたことで、限界を超えてしまったのだ。
愛しくて、分厚い唇で、<鷹里>くんの唇にブチュッとやる。
女の子の体の時は、素直になれなくて、<鷹里>くんにイジワルばかりしていたのになぜだろう。
きっと、私も限界を超えてしまったのだ。
筋肉隆々の<I 刑殺官>の体に入って、逆説的に女の子らしい気持ちになっている。こんなに素直な私が可愛いとすら思える。
<鷹里>くんの体が、冷たいのが気になる。心臓の鼓動はあるけど、弱っているのは確かだ。
<鷹里>くんの肩を担ぎ上げる。
いつもは大柄に思えた<鷹里>くんの体が、今では女のようにか弱く思える。
意識を失ったままの<鷹里>くんを担いで、早々とこの場を立ち去らねばならない。
<I 刑殺官>の頭脳の中から、逃走回路を探し出す。
廊下を曲がったところで、向こうから<M 刑殺官>が歩いてくるのに気づいた。
どうしよう。このまま逃げれば、怪しまれるのは必至だ。
右腕で<鷹里>くんの服の背中を握り、腹話術の人形を持つように持ち上げる。
こめかみに汗が流れる。
「よぉ!」
<M 刑殺官>が語りかけてくる。
「どうしたんだ。そいつは<杉澤鷹里>だな。」
「そうだ。取調べの途中だ」
「なんだ。まだ例の生物の餌食にしていないのか。」
<M 刑殺官>がつっこんでくる。
「いや、なに。まだ、聴き足りないことがあるからな。」
「馬鹿にこの男、うなだれているな。」
「ははっ。いや、取調べのあと、あの化け物の餌になると教えてやったから、元気がないだけさ。ははっ。」
笑って、ごまかそうとする。
「そうか。それにしても、今日のお前、なんだか変だな。なにかぎくしゃくしたしゃべり方だし、さっきから相当汗をかいているな。熱でもあるんじゃないか。」
<男言葉に慣れないせいさ。さっさと立ち去れ。こいつ。>と思うが、無論、口に出してはいえない。
「そちらこそ、どうした。なんだか。暇そうだな。」
「暇じゃないよ。例の現場に居合わせたゴスロリの少女が、病院の監視カメラに写っていたんだ。今は、その解析で忙しい。調べによると、<sion>という名前らしい。」
「なんだ、そのゴスロリというのは。」
「ゴシック・ロリータのことだよ。クラシカルな割りに、レースのひらひらがついていて、大人っぽさと幼児性が同居しているような……刑殺だからといって、ファッションのことも少しは知っておくべきだぞ。
それから驚くべきことがある。先週末、このビルに<しをん>という日本刀を持った女性の乱入者があっただろ。なんと<しをん>は<sion>の双子の姉らしい。まだ、詳しいことはわからないけどな。」
<しをん>は<sion>?同居家族で、同じ名前では不都合ではないか、と思う。
私は<M 刑殺官>が立ち去ったのを確認し、最大の難所を越えたと思った。あとは、セキュリティーカードを使い、裏口から出ればいい。
# by rhizome_1 | 2004-09-11 18:43 | 創作