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ネット作家・宵トマトの多彩な世界をご紹介します


by rhizome_1
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空の饗宴(9)

「クククッ」
<三毛猫室長>は、ガラスケースの中の緑の塊をピンセットでつまみあげると、<Keen>の口を開き、そこのなかに入れた。
そして、コップに水を注ぎ、<Keen>の口に水を無理やり流し込んだ。
その瞬間、ゴボッという音がして、<Keen>の体が反応した。
「ややっ。これはいい。こいつ、まだ生きてるぞ。」
<三毛猫室長>は、<杉澤鷹里>を振り返った。
「お前、本当にヤブだなぁ。生きてるか、死んでるかの区別もつかんのか。」
<杉澤教授>は尻餅をついたまま、立てずにいた。足ががくがく震えて、立てないのだ。
「こりゃ、傑作だ。いかの踊り食いは、食ったことがあるが、人間が悶え苦しみながら死んでゆく姿を見るのは、なんともいえないエンターテイメントだ。そうとは思わんかね、<杉澤くん>」
死んだと思われた<Keen>は、息を吹き返し、額から脂汗を流しながら、さかんに身もだえをしはじめた。はらわたの中を食われていると見えて、拒否の意思を示すためか首を横に振り続ける。
白衣が汗まみれで、体にまとわりついている。
口からは声が漏れるが、「うぐぅー、ぐぐぅー」と何を言おうとしているのか、判別がつかない。
「止めてくれ。」
<杉澤>は頭を抱えながら、<三毛猫室長>に懇願する。
そんな<杉澤鷹里>を、<三毛猫室長>は侮蔑するように見下ろす。
「<杉澤さーん>、なにを言ってるんですが。どーせ、こん女はあんたが一度殺した女じゃありませんか。私は確実に二度目の殺害を行っているだけですよ。」
<杉澤>は、<三毛猫室長>の足元にすがりつこうとする。
「くだらん。そんな人間的感情なんて、早く捨ててしまうことですよ。」
<三毛猫室長>は、まとわりつく<杉澤鷹里>を蹴り倒した。
「われわれは、あなたの人間の条件を超えた地点に辿り着こうとする研究に、評価をしていたのですよ。われわれは、世界各地にアンテナを張り巡らし、人間への悪意をひとつの力にまとめあげようとしているんです。そのなかで、あなたの研究は、人類を危機に導く可能性をはらんだ興味深い研究だった。それがなんです、人間の命のひとつやふたつ、それがなんだというのです。それとも<杉澤さん>、あなたも教授というメッキを剥がしたら、ただのヒトですか。」
<三毛猫室長>は、ぞっとするような笑みを浮かべた。
そうしている間に、<Keen>は血を吐いた。だが、活性化した緑の生き物は、<Keen>の口から、さっと触手を伸ばし、その血を吸い取り、いやらしい蠕動運動を行った。
かつて<Keen>と呼ばれた身体は、悪魔に乗っ取られてしまっていた。皮膚のあちこちが膨れ上がっている。悪魔が表面に顔をのぞかせようとしているのだ。
やがて<Keen>の毛穴という毛穴から、緑の粘液が染み出て、その液が<Keen>の身体を溶かしていった。
by rhizome_1 | 2004-08-07 21:34 | 創作