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ネット作家・宵トマトの多彩な世界をご紹介します


by rhizome_1
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空の饗宴(31)

「うまくいったようですな。我らの元に敵として攻め入った者を、うまく洗脳して、逆に我らの敵に対する駒にしてしまうとは。恐れ入りました。」
<刑殺庁長官>は、深々と<KOIZUMI>に頭を下げた。
「なぁに。なんてったって<KOIZUMI>だからな。趣味の将棋が、実戦にも役立っただけのこと。敵の<歩>を奪い取り、逆にこちらの駒として<歩>を打っただけのこと。敵の陣地に入るなり、<成金>と化したというわけだ。」
<KOIZUMI>は、「和」と書かれた扇子を扇ぎながら、上機嫌の笑みを浮かべた。
「あの娘は、<sion>の双子の姉で、白魔術の系統に属する<狭霧一族>の出身だ。両親は、黒魔術の系統に属する<黒猫一族>や、<大ニッポン帝国>という新しい秩序を目指すわれわれとの闘争に明け暮れていた。<狭霧しをん>という名前は、<ニッポン>の住民基本台帳には登録されていなかった。登録されていたのは、<狭霧sion>だけだった。つまり、<狭霧しをん>は、ID番号を持たない人間、存在してはならない人間だった。わが<ニッポン>において、ID番号を持たない人間とは、<存在論的アナーキスト>であり、国家の平安を脅かす危険分子である。あの両親は、<狭霧sion>のいざというときの代わりのカードとして、<狭霧しをん>を用意した。<狭霧しをん>は、実の父親の従兄弟のもとで、育てられた。<狭霧しをん>には、その従兄弟を十九歳になるまで実の父親だと信じて育った。十九歳の時、<狭霧しをん>は育ての親から、実際の親は誰かと言うことを教えられた。そして<狭霧一族>が、いかなる闘争を繰り広げていたのかということも、初めて知らされた。<狭霧しをん>が、わけわれの元に攻め入ったのは、両親の復讐のためであった。新しい秩序を目指すわれわれにとって、<狭霧一族>も、<黒猫一族>も、敵であった。なぜなら、白魔術にせよ、黒魔術にせよ、人間の精神を目覚めさせてしまうからだ。われわれの目指す未来の秩序を実現させるためには、人間が目覚めるなどということはあってはならなかった。<狭霧一族>もまた、新しい世界を志向していたが、それはコスモスと呼ばれるものであり、宇宙と生命の鼓動を調和的に一致させることを理想としていた。一方、われわれの目指す世界は、法的な拘束によって成り立つノモスであり、その秩序の中に超越的なものはあってはならなかった。<黒猫一族>は、カオスを目指していたが、これはコスモスを志向する<狭霧一族>にとっても、ノモスを目指すわれわれにとっても、方向性を異にしていた。<狭霧しをん>の実の両親は、自動車の転落事故で、同時にこの世を去ったが、この事故には勿論、仕掛けが施されていた。」
「仕掛けが施されていることを知っているということは、犯人は<総理>なのですね。」
<刑殺庁長官>は、<KOIZUMI>に尋ねた。
「うひょひょひょ。」
<KOIZUMI>は、すばらしく上機嫌である。
「だがね。復讐のために攻め入った<狭霧しをん>を確保したわれわれは、<狭霧しをん>を、催眠状態にして、次のことを吹き込んだのだよ。君の実の両親を謀殺したのは、魔術師勢力なのだよ、と。<黒猫一族>と<狭霧sion>が、君の実の両親を殺したのだよ、とね。そして、こういった甘い囁きをしたわけだ。<われわれはこの事件に深い関心を持っている。カルト宗教による殺人事件として、われわれも捜査をしている最中なのだ。カルト宗教による事件の被害者の子息であるあなたには、深い同情を禁じえない。>とね。実の両親と離れて暮らした<狭霧しをん>は、剣術は教えられているが、魔術とは無縁の世界に生きてきた。そのため、魔術に関して、いかがわしい世界であると毛嫌いする潔癖さを持っていた。だから、その点を突いたのだ。どうだ、いかしてるだろう。いいか、今後のために言っておくが、催眠状態での洗脳は、被験者の中の隠された欲求に沿うものでないといけない。被験者がまったく望まないものを、欲望させることはできないんだ。日ごろから大衆心理を読み、ここまでのし上がってきたポピュリズムの天才だからこそ、なし得た洗脳なのだよ。だから、<狭霧しをん>は<ゾンビ戦隊デンジャラス>だけでなく、<狭霧sion>を必ず斬る。少なくとも<狭霧しをん>がマスターしている剣術は、<狭霧一族>直伝のものだからね。<狭霧sion>と互角に戦えるはずだよ。うひっひっひ。」
by rhizome_1 | 2005-06-01 21:40 | 創作