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ネット作家・宵トマトの多彩な世界をご紹介します


by rhizome_1
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「予告! 投稿サイト“百円文庫”から生まれた秀作  杉澤鷹里『射玉行』9/26発売予定」との文字が、
http://www.dbook.co.jp/spacetown/zero-books/index.jsp
に見られます。
神保町ゼロ丁目書店より、電子書籍として発売されるのです。
http://www.zero-books.com/top.html

[杉澤鷹里さんの略歴]
創作系掲示板「破壊者の幻想譜 http://www4.rocketbbs.com/141/ouro.html 」主宰。
HP「青都探 http://www.geocities.jp/sugisawathakali/index_blue.htm 」管理人。
# by rhizome_1 | 2005-08-31 20:51 | エッセイ
rhizome_1@excite.co.jp
# by rhizome_1 | 2005-07-22 21:19 | メール

空の饗宴(31)

「うまくいったようですな。我らの元に敵として攻め入った者を、うまく洗脳して、逆に我らの敵に対する駒にしてしまうとは。恐れ入りました。」
<刑殺庁長官>は、深々と<KOIZUMI>に頭を下げた。
「なぁに。なんてったって<KOIZUMI>だからな。趣味の将棋が、実戦にも役立っただけのこと。敵の<歩>を奪い取り、逆にこちらの駒として<歩>を打っただけのこと。敵の陣地に入るなり、<成金>と化したというわけだ。」
<KOIZUMI>は、「和」と書かれた扇子を扇ぎながら、上機嫌の笑みを浮かべた。
「あの娘は、<sion>の双子の姉で、白魔術の系統に属する<狭霧一族>の出身だ。両親は、黒魔術の系統に属する<黒猫一族>や、<大ニッポン帝国>という新しい秩序を目指すわれわれとの闘争に明け暮れていた。<狭霧しをん>という名前は、<ニッポン>の住民基本台帳には登録されていなかった。登録されていたのは、<狭霧sion>だけだった。つまり、<狭霧しをん>は、ID番号を持たない人間、存在してはならない人間だった。わが<ニッポン>において、ID番号を持たない人間とは、<存在論的アナーキスト>であり、国家の平安を脅かす危険分子である。あの両親は、<狭霧sion>のいざというときの代わりのカードとして、<狭霧しをん>を用意した。<狭霧しをん>は、実の父親の従兄弟のもとで、育てられた。<狭霧しをん>には、その従兄弟を十九歳になるまで実の父親だと信じて育った。十九歳の時、<狭霧しをん>は育ての親から、実際の親は誰かと言うことを教えられた。そして<狭霧一族>が、いかなる闘争を繰り広げていたのかということも、初めて知らされた。<狭霧しをん>が、わけわれの元に攻め入ったのは、両親の復讐のためであった。新しい秩序を目指すわれわれにとって、<狭霧一族>も、<黒猫一族>も、敵であった。なぜなら、白魔術にせよ、黒魔術にせよ、人間の精神を目覚めさせてしまうからだ。われわれの目指す未来の秩序を実現させるためには、人間が目覚めるなどということはあってはならなかった。<狭霧一族>もまた、新しい世界を志向していたが、それはコスモスと呼ばれるものであり、宇宙と生命の鼓動を調和的に一致させることを理想としていた。一方、われわれの目指す世界は、法的な拘束によって成り立つノモスであり、その秩序の中に超越的なものはあってはならなかった。<黒猫一族>は、カオスを目指していたが、これはコスモスを志向する<狭霧一族>にとっても、ノモスを目指すわれわれにとっても、方向性を異にしていた。<狭霧しをん>の実の両親は、自動車の転落事故で、同時にこの世を去ったが、この事故には勿論、仕掛けが施されていた。」
「仕掛けが施されていることを知っているということは、犯人は<総理>なのですね。」
<刑殺庁長官>は、<KOIZUMI>に尋ねた。
「うひょひょひょ。」
<KOIZUMI>は、すばらしく上機嫌である。
「だがね。復讐のために攻め入った<狭霧しをん>を確保したわれわれは、<狭霧しをん>を、催眠状態にして、次のことを吹き込んだのだよ。君の実の両親を謀殺したのは、魔術師勢力なのだよ、と。<黒猫一族>と<狭霧sion>が、君の実の両親を殺したのだよ、とね。そして、こういった甘い囁きをしたわけだ。<われわれはこの事件に深い関心を持っている。カルト宗教による殺人事件として、われわれも捜査をしている最中なのだ。カルト宗教による事件の被害者の子息であるあなたには、深い同情を禁じえない。>とね。実の両親と離れて暮らした<狭霧しをん>は、剣術は教えられているが、魔術とは無縁の世界に生きてきた。そのため、魔術に関して、いかがわしい世界であると毛嫌いする潔癖さを持っていた。だから、その点を突いたのだ。どうだ、いかしてるだろう。いいか、今後のために言っておくが、催眠状態での洗脳は、被験者の中の隠された欲求に沿うものでないといけない。被験者がまったく望まないものを、欲望させることはできないんだ。日ごろから大衆心理を読み、ここまでのし上がってきたポピュリズムの天才だからこそ、なし得た洗脳なのだよ。だから、<狭霧しをん>は<ゾンビ戦隊デンジャラス>だけでなく、<狭霧sion>を必ず斬る。少なくとも<狭霧しをん>がマスターしている剣術は、<狭霧一族>直伝のものだからね。<狭霧sion>と互角に戦えるはずだよ。うひっひっひ。」
# by rhizome_1 | 2005-06-01 21:40 | 創作

空の饗宴(30)

不意に黒い雫がほおにかかる。
「なんだ。<与太郎>。きものにかかるじゃないか。このきもの、高いんだぞ。」
<しをん>は相当怒っているとみえて、すでに日本刀の先は、天を引き裂いていた。
「画用紙に、黒の水彩絵の具なんか垂らして、しかも天井まで水道を引っ張るなんて!子供だましも、いい加減にしろ!お前の妄想世界にヤラれてしまった人間は、この雫を放射能雨と思うだろうが、しょせん、ニセものにすぎん。お前の部屋には、絵の具の類いはあっても、放射性物質なんてないのだからな。ただ、<くらやみ男爵>から魔力を得ているお前の妄想世界は、これをホンモノと認識した人間には、ホンモノと同じだけの効果があるようになっているというわけだ。簡単にいえば、単なるビタミン剤でも、いろいろ効くといって渡すと、なんか効くようにかんじるプラシーボ効果ってのがあるが、あれを一万倍したようなものだ。だがな、<与太郎>。なんか、計算ちがいをしてないか。」
<しをん>は、あごで前方の<sion>を見るように促す。
前方では、黒い雨を受けて、ピチピチチャプチャプランランランランをやっているゴスロリの女の子がいる。女の子は、黒い水たまりに、ジャンプして、飛び跳ねる雫が、ゾンビ戦隊の連中にかかるのを楽しんでいる。
「な、なんと」
<与太郎>の目がどきもを抜かれたように、見開いている。
「放射能雨の怖さを知っている人間には、<くらやみ男爵>の邪悪な力で、ホンモノの放射能障害が出る。甲状腺が腫れ、リンパ節が痛み、高熱が出て、やがて傷を負うと出血が止まらなくなり、全身に悪性腫瘍が出来てゆく。しかし、アレのように、幼いころから魔術修行に明け暮れ、まともな科学知識を学んだこともないトンデモには、お前の常識は通用しない。単なる黒い水以外のなにものでもないってことさ。また、このカラクリを見抜いてしまい、どうみてもニセモノの舞台設定としか見えない鋭敏な私にも、お前の策略は通用しない。これまた、単なる黒い水以外のなにものでもないってことさ。」
きものを汚されそうになった<しをん>は、先ほどから相当怒っていて、目の前にしたデンジャラス・レッドを蹴散らしていた。
「そこの<コイケ・エイコ>、図体がでかいんだよ。邪魔だ。ドケ!」
続いて、デンジャラス・パープルである。
「なんだ、<カバ>か。こっちに来るな。気持ち悪いんだよ。邪魔だ。たたっ斬るぞ!ボケ!」
「あんた、気持ち悪いなんて、失礼ね!」
デンジャラス・パープルが強烈な安物の香水の匂いをさせながら、近寄ってきた。
「<カバ>とか、<カバ先生>とか、ウザいんだよ!」
ちなみに、<カバ先生>とは笠井潔という作家のニックネームらしいが、判る人にしか判らない名前であると思う。
<しをん>の日本刀は、デンジャラス・パープルを刎ねた。
「馬鹿だね。あたしたち、ゾンビ戦隊だから、そんなことしても、首が生えてくるのよ」
レッドが近寄ってきたが、<しをん>はせせら笑った。
「残念だ。さっき、ここに来るとき<与太郎センセ>の部屋のフィギュアをなぎ倒してきたからね。すでに、お前たちの原型は、壊れてしまっている。お前の顔のパーツも、すでにないんだよ!」
<しをん>の日本刀は、レッドを斬りおとした。
「次は<ニジュウヨジカン、タタカエマスカ?>か!」
デンジャラス・イエローの眼に、<しをん>に対する勝算の数字が表示されている。<コイツは、すでに人間じゃないな>と<しをん>は思う。企業戦士という機械なのである。
デンジャラス・イエローは、放射状に延びた複数の刃物を手にしていた。そして彼は、刃物を回転させ始めた。
「愛用の髭剃りの大きいのを、特注でつくってもらったんでね。」
それを持つイエローの手首は、腕との間に切れ目があり、手首がモーターのように回転している。
どうやら、歯ごたえのある敵のようだ。
<しをん>は、構えの姿勢をとった。
# by rhizome_1 | 2005-05-19 15:42 | 創作

空の饗宴(29)

「そこまでだな。」
不意に日本刀がつきつけられる。
眼を閉じて、ゾンビ戦隊デンジャラスと<sion>の戦いに意識を集中させていた<与太郎>の首元には、日本刀の刃が接触している。
気がつけば、和服の女性がそこに立っている。
「<sion>、なぜ、そこにいる!」
<与太郎>は、驚愕を隠せない。
暗い目をしたその女性が、かすかに微笑んだ。身も凍るような冷たい笑みだった。
「あいにく、私は<sion>じゃない。私の名は<しをん>。<sion>は、私の双子の妹だ。」
「な、なに。双子の片割れだと……。それで、お前は助けに来たというのか。」
<しをん>は、それには答えず、<与太郎>を振り払うと、部屋の奥にずかずかと入り込んだ。
「それにしても、ヲタだな。虫唾が走る。」
<与太郎>の部屋には、等身大のフィギュアが並んでいる。
「この顔は<コイケ・エイコ>。これがデンジャラス・レッドのプロトタイプか!ふん、くだらん。」
<しをん>は、<与太郎>の部屋にあった等身大のフィギュアをなぎ倒してゆく。
「なにをするか。オレ流のゲージツに対して。」
フィギュアの腕が折れ、<与太郎>は泣きそうな顔をしている。
<与太郎>は、<しをん>を止めようとしたが、再び<しをん>から日本刀が繰り出され、<与太郎>の3ミリ手前で止まった。
「なにもできない無力なオタのくせに、止めようとするのか。お前が出る幕など、10年早いぞ。」
部屋の奥にあったのは、ぶよぶよとした赤い玉であった。それは人間が二、三人入れるほどの大きさをしていた。
ぶよぶよとした赤い玉は、呼吸しているのか、玉の表面の産毛のようなものが、かすかに動いていた。
「こいつか。ヲタの妄想空間は。こんなろくでもないものを、実体化させたのは<くらやみ男爵>だな。」
<与太郎>の瞳孔が、<くらやみ男爵>の名を聞いて、かすかに輝いた。開かれた真っ黒な瞳孔を覗き込むように、<しをん>は言った。
「少しは反応があるようだな。無論お前は、意識の上では<くらやみ男爵>のことを知らない。だが、無意識の上では、一番良く知っている。お前は、<くらやみ男爵>に催眠状態で操られているピエロに過ぎない。<くらやみ男爵>が、お前を使ってやろうとしたことは、世界をお前の妄想空間に引きずり込み、破滅させることだった。その魔力を使って、だ。だが、お前の役割は終わった。私は、<くらやみ男爵>とお前が世界を破滅させる前に、破滅の妄想を破滅させる。こんなふうにな。」
日本刀がしなやかなカーブを描いて、赤い玉を斬った。
玉の中から、赤い闇があふれ出た。
「<くらやみ男爵>の魔力の秘密は、あるはずのないものが、あるかのごとく信じさせることだった。お前のつくった妄想空間を実体化させるために、お前自身に、これが実在するものだという信憑を植えつけた。いいか、お前は食い物にされていたんだぞ。お前の魂の力は、すでに枯渇している。これを、現実化させるために、<くらやみ男爵>はお前の魂の中の生命力を、吸血鬼のように吸い取ったのだ。この赤い闇は、お前の心の世界だ。」
そういって、<しをん>は、赤い闇の世界に踏み入れていった。
# by rhizome_1 | 2005-05-16 00:00 | 創作

空の饗宴(28)

「このうぅぅぅぅぅ!」
<sion>の日本刀が、光の環を描くように振りかざされ、デンジャラス・レッド、デンジャラス・パープルの風船のような腹部を斬った。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
デンジャラス・レッド、デンジャラス・パープルの腹部から爆風が起き、ふたりはたちまち萎んでいった。
「あれれ。」
デンジャラ・レッドは、ぺしゃんこになった腹部を押さえながら倒れた。
「うひゃうひゃ」
デンジャラス・パープルも、けったいな奇声を上げ、腹部を押さえながら倒れた。
「ふん。われわれの恐ろしさは、こんもんじゃない。いくぞ!<sion>!」
デンジャラス・プラックが、攻撃の構えをみせると、デンジャラス・イエローがおもむろに電卓を取り出し、めまぐるしい速さで電卓を叩き始めた。
「135546764345555566678986445455429977638381……」
そのたびに、デンジャラス・イエローの目に、数字が表示されてゆく。
「なんてことだ。」
<sion>は、あまりの馬鹿馬鹿しさに、舌打ちをした。
「隊長!われわれの勝算は、99.9999979999%です。」
デンジャラス・イエローは、素っ頓狂な声を上げた。
「なに、99.9999999999%だと。」
デンジャラス・ブラックが訊いた。
「いえ、99.9999979999%です。」
「ふん。せせこましいことよ。そんな計算などせずに、真っ先にお前がいけ!」
デンジャラス・プラックが、デンジャラス・イエローの背中に蹴りを入れた。
「おお!」
前のめりにふらつきながら、デンジャラス・イエローは、<sion>の前に出てきた。
すると、妙に緊張して、
「では、初めてなので、よろしくお願いします。」
といった。どうなってるんだ。これは戦隊ものなのか。
デンジャラス・イエローは、かしこまって、
「それでは。デンジャラス・キック★★★」
デンジャラス・イエローが、飛び上がると、<sion>に蹴りを入れる前に、<sion>の日本刀がデンジャラス・イエローを斬った。
その醜態を見ていたデンジャラス・マルチカラーが、くすくす笑い始めた。
「デンジャラス・キックだなんて、なんてベタな攻撃法であることよ。わたしだったら、そんなことはしない。わたしの名は、マルチカラー。一番、強いのだ。<sion>よ、これでもくらえ!デンジャラス・マルチ攻撃★★★」
それは奇怪な攻撃法であった。デンジャラス・マルチカラーの手足は、数秒間に凄まじい動きを見せ、千手観音のようになった。ハイキック、ミドルキック、ローキック、膝蹴り、パンチ、空手チョップ……ありとあらゆる技が繰り出さされ、手足が見えないくらいに加速した。
<sion>は、後ずさりした。
だが、それは杞憂であった。
「はぁ、はぁ、俺は歳だからなぁ。」
デンジャラス・マルチカラーは、<sion>に接触する以前に、息切れをしながら、へたり込んだ。
「なんて、だらしない奴らだ。では、この私が相手をしてやることにしよう。」
デンジャラス・プラックが、にやりと笑った。
「デンジャラス・サンダー★★★」
稲光が落ちた。
「デンジャラス・ブラックレイン★★★」
映画のタイトル?と思ったが、それこそが一番恐ろしい必殺技であった。<sion>のほおに、黒い雨が落ちた。
「いいか。<sion>。これは放射能雨だ。お前は、この雨を浴びて、確実に死ぬ。我々はゾンビだから死なない。」
隊員たちの<sion>によって斬られた傷は、急速な再生能力で、見る間に塞がってゆき、全員が立ち上がった。

【デンジャラス・ブラックからの一言】
うははっは。これで次回から、主役は<sion>から、俺様にチェンジだ。
俺達のファンは、「ゾンビ戦隊デンジャラスのテーマ」を歌いながら、<sion>退治を応援してほしい。
http://players.music-eclub.com/players/Song_detail.php3?song_id=48116
作者は、俺達の後にも、<sion>の敵を準備しているようだが、そいつらには用はない。<sion>退治は、俺達だけで十分だ。
# by rhizome_1 | 2005-01-10 18:04 | 創作

空の饗宴(27)

「お前たちが、この地震を引き起こした犯人か。」
<sion>が叫んだ。
「そうとも。まだ、信じられないようだな。あれしきの地震など、このメトロノームと、オレ流の魔法さえあればできる。」
デンジャラス・プラックは、そういって隠し持ったメトロノームを見せた。
「なんなら、やって見せようか。冥土の土産にみせてやろう。」
デンジャラス・プラックは、ニヤリを笑うと、「さぁ、レッド&パープル、太るんだ。」といって、指パッチンをした。
「な、なんで、わたしが……。」
恥ずかしさで、顔に手を押し当てながら、紅一点のデンジャラス・レッドが見る間に、どんどん太ってゆく。その太り方は、まるで餅が焼かれて、膨らみ始めたように見えた。
さらに、デンジャラス・パープル。彼は、というべきか、彼女というべきか、デンジャラス・パープルは、ゾンビ戦隊唯一のニュー・ハーフ。そのパープルも、
「いやーん」と胸を押さえながら、どんどん太ってゆく。
やがて、デンジャラス・レッド、デンジャラス・パープルの順で、パチンと音がして、霞ヶ関ビルほどのサイズに大きくなった。
「さぁ、さきほどと同じように、メトロノームの音に合わせて、ジャンプするんだ。」
TIKUTAKU-TIKUTAKU- TIKUTAKU-TIKUTAKU- TIKUTAKU-TIKUTAKU-
メトロノームの音に合わせて、レッドとパープルがびょんびょんとジャンプし始めた。
「な、なんだ。こいつら」
<sion>は、常識がぐらぐらと崩れる印象を持った。
やだーん-いやーん-やだーん-いやーん-やだーん-いやーん-やだーん-いやーん-
レッドとパープルが、メトロノームの音にあわせて、交互に声を上げて、ジャンプする。
「なんてことだ。」
地面の揺れが大きくなってゆく。ゆっくりと、確実に。
「ふふふっ。<sion>くん、これが共振の原理を利用した地震のメカニズムなのだよ。小さな揺れであっても、それに合わせて、エネルギーを加えてやれば、揺れは次第に大きくなり、やがては人間社会を脅かすものになる。ニコラ・ステラが発見し、日本のカルト教団が研究した地震発生のメカニズムに、このメトロノームを加えた。名づけて、デンジャラス・メトロノーム・パニック!」
「畜生。許さん。」
<sion>のパラソルから、日本刀が引き抜かれた。
亜空間に立つゴスロリの美少女と、ゾンビ戦隊デンジャラス5人組。想像を絶する闘いの幕が開いた。

【デンジャラス・マルチカラーからの一言】
ゾンビ戦隊デンジャラスの応援歌「ゾンビ戦隊デンジャラスのテーマ」は、YAMAHAプレイヤーズ王国で、オンエア中!
http://players.music-eclub.com/players/Song_detail.php3?song_id=48116
さぁ、君も「視聴」をクリックして、ゾンビ戦隊デンジャラスを応援するんじゃ。
次回は、わしも<sion>退治に頑張るからな。ウハッハッハッハ……
# by rhizome_1 | 2004-12-10 20:14 | 創作

空の饗宴(26)

「ふっ。」
<sion>は、緊張感をほぐすために、息を吐いた。一体、なにを考えているというのか。強敵を目の前に、これは命取りではないか。
いま一瞬、よぎった妄想は、この世界が別の作者の手になるもので、自分が二次元に書かれた小説の中の存在のようなものではないか、ということだ。この世界を生きるものが三次元の立体的存在だとすると、三次元の立体的存在が書いた小説の中のキャラクターは二次元の平面的存在である。それと同じように、四次元以上の存在が描いた世界が、この三次元世界なのではないか、ちょうど三次元の世界の中で二次元の平面が立体の切り口であるように、この世界は四次元の切り口として存在しているのではないか、ということだ。
「<sion>、いいか。俺たち、ゾンビ戦隊デンジャラスが、キサマの相手だ。覚悟しろ。」
黒いマントに、黒のシャツに黒のタイツ、全身黒づくめの男の声で、我に変える。
黒服の男以外に、赤、黄、紫、そして虹色のカラフルな衣装を着た奇妙な連中が並んでいる。
そして、おもむろに唄い始めた。なんなんだ、こいつら。

「ゾンビ戦隊デンジャラスのテーマ」
I.(セリフ デンジャラス・ブラック参上!)
[ブラック 独唱]
俺はゾンビだ
不死身の体
正義の味方を倒すため
今日も戦う ゾンビ戦隊デンジャラス
悪の聖書(バイブル) 逆回転で再生だ
[全員で]
GO!GO!ゾンビだ
いつでもゾンビは蘇る
GO!GO!ゾンビだ
ゾンビ戦隊デンジャラス
II. (セリフ デンジャラス・レッド参上!)
[レッド独唱]
私はゾンビよ
永遠の女神
正義の味方を誘惑し
堕落させるわ ゾンビ戦隊デンジャラス
悪の堕天使 私のことだわ
[全員で]
GO!GO!ゾンビだ
いつでもゾンビは蘇る
GO!GO!ゾンビだ
ゾンビ戦隊デンジャラス
III.(セリフ デンジャラス・イエロー参上!)
[イエロー独唱]
私はゾンビだ
不眠の戦士
正義の味方を攻略し
実績あげるぞ ゾンビ戦隊デンジャラス
悪のマニュアル 私が立案
[全員で]
GO!GO!ゾンビだ
いつでもゾンビは蘇る
GO!GO!ゾンビだ
ゾンビ戦隊デンジャラス
IV.(セリフ デンジャラス・パープル参上!)
[パープル 独唱]
アタシはゾンビよ
不敵の微笑
正義の味方をイカレさせ
毒牙にかけるの ゾンビ戦隊デンジャラス
悪の美学 アタシだけが知っている
[全員で]
GO!GO!ゾンビだ
いつでもゾンビは蘇る
GO!GO!ゾンビだ
ゾンビ戦隊デンジャラス
V.(セリフ デンジャラス・マルチカラー参上!)
[マルチカラー 独唱]
ワシはゾンビじゃ
欲張りじゃ
悪の帝国うち建てて
栄華を極める ゾンビ戦隊デンジャラス
悪の愉しみ ワシの脳を刺激する
[全員で]
GO!GO!ゾンビだ
いつでもゾンビは蘇る
GO!GO!ゾンビだ
ゾンビ戦隊デンジャラス

ああっ、頭が割れそうだ。くだらない。なんて馬鹿げた奴らだ。
しかし、見くびるのは早すぎた。
「これを受けてみろ。デンジャラス亜空間Moment movement!」
デンジャラス・ブラックが声をかけると、<sion>を取り囲んだブラック・レッド・イエロー・パープル・マルチカラーの手のひらから光線が発射され、光のリングが<sion>の周りに形成されてゆく。その光のリングは、徐々に狭まってゆく。
いけない。逃げられない。
光のリングが、ついに<sion>に触れ、<sion>は空間が捻じ曲がるような感覚を覚えた。
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくるしししししししししししししししいいいいいいいいいいいいいいっどおなってるるるるるるるるるるるるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
世界が大きく歪み、周りが光の線になった。線のように見えるのは、周りが変化しているのではない、自分が、<sion>自身が高速度でどこかに移動しているからだ。やがて世界は闇になり、<sion>は精神が押しつぶされるような感覚を覚えた。それは、完全な死、時間の停止した世界であった。
だが、それは一瞬のことで、そこを定点として、生の世界とはさかさまの世界に逆移動を始めた。
なにぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉどどどどどぅなってるののののののののののののぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
しばらく、息詰まるような世界が続いたが、やがて周りの光の線が短くなり、<sion>の身体が再び輪郭を持ち始めた。
だが、ここはどこだろう。
周りにはなにもない。樹も、建物も、工場も、電柱も、土さえもない。
赤紫の丸い世界が広がるばかりである。
そして、目の前にはゾンビ戦隊デンジャラスの五人組。
「ここが、どこか教えてやろう。ここは亜空間。ここならば、想い存分、戦える。この空間は、完全な閉鎖系だから、闘いが終わるまで、この空間から出ることはできない。また、遮蔽物はないから、われわれの霊力から身をかわすことも不可能だ。<sion>、ここはお前の墓場だ。年貢の納め時だと覚悟するんだ。」
リーダーらしきデンジャラス・ブラックが言った。

※ゾンビ戦隊デンジャラスのテーマは、はらぴょん様の以下のサイトに掲載されていたものです。
http://d.hatena.ne.jp/dzogchen/20041124#p2
この小説への転載にあたっては、はらぴょん様のご快諾を得ました。はらぴょん様、ありがとうございました。この場を借りて、お礼申し上げます。なお、ゾンビ戦隊デンジャラスのテーマの音楽は、以下のサイトで聴くことができます。
[ハーモニーフィールド]
http://goro4259.web.infoseek.co.jp/korabo.htm
# by rhizome_1 | 2004-11-29 20:48 | 創作

空の饗宴(25)

<宵トマト>が失踪した。
<宵トマト>は、<杉澤鷹里>氏が主宰するWeb上の創作掲示板「破壊者の幻想譜」に、『空の饗宴』(28)を2004/10/22(Fri) 16:00に投稿し、さらに自身のプログ「宵トマトの部屋へようこそ」に、同一の原稿を『空の饗宴』(24)として2004/10/22(Fri) 16:01に投稿した後、完全に沈黙したのである。
「宵トマトの部屋へようこそ」の附属掲示板「宵トマトを育てる会」には、<宵トマト>の最後の書き込みが見られる。2004/10/23(Sat) 23:32の書き込みによると、「新潟県中越地方で起きた地震のニュースに、ショックを受けました。」とあり、翌日23:17の書き込みには、「このような状況下で、地震の話題の出てくる物語を書き続けることに、抵抗を感じるようになりました。」とある。
10月23日17時56分頃発生した新潟県中越地方の地震は、マグニチュード6.8(暫定)、最大震度6強であった。その後も、新潟県中越地方の地震は続き、同日18時12分頃にマグニチュード6.0(暫定)、18時34分頃にもマグニチュード6.5(暫定)、いずれも最大震度6強の地震が発生した。
<宵トマト>が新潟県中越地方の前日10月22日に投稿した小説の中で、震度5の地震が起き、その後も余震が続く内容が含まれていたのである。私、<天藤尚己>は、『空の饗宴』の投稿を読んでいたひとりであるが、連載が続いていれば、その後も『空の饗宴』は地震のシーンが続いていたことは間違いない。『空の饗宴』には、悪玉の<ゾンビ戦隊デンジャラス>が地震を引き起こしており、それを善玉の<sion>が斬るという筋書きだったと推測されるからである。
<宵トマト>は、小説の連載が不謹慎であると考えたに違いない。あのような悲惨な出来事の前日に、すでに想像上の世界で描いてしまっているというのは、なにというめぐり合わせなのだろうか。
ここでふと不安がよぎる。<宵トマト>は、『空の饗宴』で地震を引き起こす方法があると仄めかしている。<宵トマト>の小説を読んだ後、その方法を知っているものが、それを実行に移した可能性は?馬鹿な。滅相もないことだ。
実は、先ほど私は「『空の饗宴』の投稿を読んでいたひとり」と傍観者であるかのように書いたが、それには嘘がある。
私が<宵トマト>に出会ったのは、某創作系のML(メーリング・リスト)を通じてであった。そこはファンタジー系の小説を扱っており、<宵トマト>は当時<みんみん>という名前で、自分の読んだライト・ノベルについて語っており、いつか同人誌を出して、自分も創作活動をしてみたいを語っていたのである。
私はその頃、<天藤尚己>という名前で「破壊者の幻想譜」に『蠕動』というイカレた小説を書いていたため、「破壊者の幻想譜」を紹介したのである。
幸いなことに<宵トマト>は、竹本健治、笠井潔、京極夏彦らを読んでいた。「破壊者の幻想譜」は、竹本系の掲示板であるから、竹本健治の著作を知らないと、他の投稿者と話が合わないということがあり得る。そういう意味で、竹本健治の作品に目を通しているということは、掲示板の傾向と合致しているといえた。
<宵トマト>が私の誘いを受け、小説を書いてみる気になったとき、奈須きのこの『空の境界』が話題になっていた。<宵トマト>は、MLで奈須きのこは、竹本健治と笠井潔の両方を読んでいると語っていた。<宵トマト>によると、若い書き手は先行世代の作品を読んでいない人が増えており、書く内容も童話のようなものが増えているという。そして、竹本健治と笠井潔の両方を読んでいるというだけで、とりあえず最低条件はクリアしているといった。<宵トマト>が『空の饗宴』を書き始めた際に、この『空の境界』を意識したことは間違いない。
「破壊者の幻想譜」に<宵トマト>が投稿するに際して、<宵トマト>は私に頼んできたことがある。それは、IPアドレスを知られるのは嫌だから、原稿はメールで送るので、「破壊者の幻想譜」への投稿は、<天藤尚己>さんが、代わりにやってほしいというのだ。
<宵トマト>の徹底した秘密主義は、何によるものなのかわからない。私は<宵トマト>が何者なのか知らない。一応、女性ということになっているが、実のところ私にもわからない。
原稿がメールで届いた段階で、内容を見て、破棄しようとすら考えたが、結局、そこまで冷酷にもなれず、結局、私が代理で投稿してしまった。だから、「破壊者の幻想譜」に残っているIPアドレスは、私のものである。私は、管理者の<杉澤鷹里>氏が、<宵トマト>と<天藤尚己>が同一人物と誤解しているのではないか、と危惧する。竹本健治と笠井潔の両方を読んでいる<宵トマト>は、私と作風も似ているからである。
ただ、<宵トマト>がパラノイアックで、怖いと思ったことがある。それは<宵トマト>が自身のプログに投稿するタイミングである。私がメールを開けるタイミングは、開封確認でわかるし、開封確認が届いた段階で音声で知らせるようにしておけばいい。しかし、私にメールを開封した後、その原稿を「破壊者の幻想譜」に掲載するまでの間、<宵トマト>は寝食も犠牲にして「破壊者の幻想譜」を見続けていたのは、間違いない。今か、今かと、待ち構え、時間差もなく、自身も「宵トマトの部屋にようこそ」に原稿を投稿するのである。それは、<宵トマト>が、自身を<天藤尚己>であると管理者に錯誤させるための異常な努力である。<宵トマト>が定職を持たないのは、間違いない。メールを開封した後、どれだけの間隔を開けて投稿するのか、判らないからである。もしかして、私は<宵トマト>を知らないだけで、<宵トマト>は私を知っているのかも知れない。私の自室の入り口にセンサーが仕掛けられており、私が開閉すると<宵トマト>に送信されるとか、あるいはパソコンを起動させると、<宵トマト>に送信されるとか。ああ、なにという奇怪な想像。あるいは、私の部屋にビデオカメラでも仕掛けられているかも知れない。実は、不安感に苛まれ、自身の部屋を隈なく調べたことがある。ビデオカメラはなかった。センサーらしきものも。一体、これはなんなのか。
# by rhizome_1 | 2004-11-17 22:32 | 創作

空の饗宴(24)

<天童博士>の人工島は、夜明けを待たずに黙って出た。
<江藤蘭世>の枕元には、手紙を残してきた。
手紙には「やはり、自分ひとりで行く。この闘いの巻き添えにしたくない。病気のお祖母さんを、ひとりにするな。運が良ければ、また会おう。」とだけ書き記した。
<天童博士>の秘密基地から、手漕ぎのボートを拝借することにした。
<ニッポン国>の本土に再上陸して、なにやら異変が起きていることに気づいた。港町で倒壊している民家が数多くあった。古くからある石垣までもが、崩れていた。
異変の原因は、すぐにわかった。地震だ。
上陸してすぐに、震度5の地震に見舞われた。
路上でよろめき、落ちてくる屋根瓦からかろうじて身を防いだ。その後も、小さな余震が続き、一向に収まる気配がない。
一体、何なのか。天災なのか、まさか……。
不吉な不安がよぎる。
そんなことができるのだろうか。魔術をもって、そんなことが……。
馬鹿げている。誰も地震が人為的に引き起こせるだなんて考えはしない。
こんなことを考えるのは、自分がどうかしているせいだ。
だからといって、いったん湧き上がったどす黒い疑惑を完全に払拭することも出来なかった。
<プロフェッサー神村>に会うことにしたのは、そのためだった。
オカルトにも通じた地政学者<プロフェッサー神村>は、なかなか油断のならない人物だった。
この人物を知ったのは、<天童尚巳博士>に聞かされていたからだ。<風水>や<レイ・ライン>に詳しい第一人者だと。
だが、<プロフェッサー神村>は、決して<天童派>ではない。気の向いたままに、<天童派>や<黒猫館派>に手を貸し、自分は面白がって高見の見物をするようなタイプだ。
<プロフェッサー神村>に会うため、神劉館大学を訪れた。
<プロフェッサー神村>には、「神国日本と<邪悪なもの>」についてご教示願いたいと言って、面会を求めた。
私は<プロフェッサー神村>を通じて、私の情報が敵側に流れることを恐れて、自分の立場を説明しなかったが、直接訪れた不躾な訪問者を目前にして、<プロフェッサー神村>は、私が<天童派>であることをうすうす気づいたようだった。
地震の話に及ぶと、<プロフェッサー神村>は私の瞳を見つめて、私の反応を伺っているように思えた。
私は<プロフェッサー神村>に、私の心が読み取られないように必死で耐えた。
「ふふふっ。」
しばらく、にらめっこが続いていたが、<プロフェッサー神村>は抑えきれなくなったのか、声に出して笑い始めた。
「実はね。数ヶ月前に、私のもとに地震を人為的に引き起こす手段はないかと、真顔で聞いてきた男がありましてね。たしか<三毛猫室長>とか言いましたか。銀縁眼鏡の慇懃無礼な奴でしたよ。彼には、そこにあるニコラ・テスラ関連の研究書を数冊教えてやりましたが。そのせいかどうか知りませんが、それ以来<ニッポン列島>は地震が多いですね。くっくっく。」
その笑い声を聞いて、それまで猫をかぶっていた私はキレた。
<プロフェッサー神村>の胸座を掴み、「お前、馬鹿じゃないのか。そんなことをして、お前のいるこの<列島>がどうかなったら、どうするんだよ。」と言い放った。
急変した私を見て、青ざめた<プロフェッサー神村>を後に、私は研究室を飛び出した。
急がねばならない。震源地で、なにかが行われている可能性がある。
手遅れでなければよいが。
私は焦っていた。
# by rhizome_1 | 2004-10-22 16:01 | 創作

空の饗宴(23)

「<聖地>に選ばれるには、条件が必要なのですよ。」
<プロフッサー神村>は語る。
「<ニッポン国>の『皇国記』を読んでいますと、初代皇帝の時代、つまり新石器時代に<巨石遺跡>が作られたという記載が多く見られます。これらの<巨石遺跡>では、祝祭目的の集会が開かれていたと考えられます。巨石は神社のご神体であったと考えられますが、神社の方はなくなり、巨石だけが残っているケースも多いようです。他に、山自体がご神体となっているケースがあり、<神奈備山>と呼ばれています。
信仰の対象としての巨石や山は、コスモロジーの中心軸として作用し、その周りに聖なる空間を現出させます。人々は、これらの巨石や山に向かうことで、自らの意識を、俗なる世界から聖なる世界に至らせることが出来ます。つまり、これらは民族の記憶をチャージしておく記憶庫としての役割を果たすわけです。
ところで<巨石遺跡>と<神奈備山>の所在地を、<ニッポン国>の地図に描きこむと、一定の法則が見えてきます。これらの<聖地>は、一辺48.2kmの正三角形二つ分の菱形になるということです。
西欧ではアルフレッド・ワトキンスという人が、<聖地>を結んでいくと一直線になることを発見し、ライン上に<レイ>という名前がつく地名が多いことから、<レイ・ライン>ということを主張しています。<レイ・ライン>は、東洋の<風水>の用語で置き換えると、<龍脈>となります。
<ニッポン国>の代表的な<レイ・ライン>には、「太陽の道」と「御来光の道」があります。「太陽の道」とは、<ナラ・シティ>の長谷寺、三輪山、桧原神社、国津神社、箸墓を結ぶ直線のことであり、「御来光の道」とは<チバ・シティ>の上総一の宮、<カナガワ>の寒川神社、<シズオカ>の富士浅間神社、富士山頂、七面山、 竹生島、大山、日御崎神社を結ぶ直線のことです。
<レイ・ライン>は、一説によると太陽の動きと関係があり、これらの<聖地>は暦作成のための観測地点であったとされます。しかし、それだけでは説明のつかない地点が存在します。
<風水>では、<龍脈>という言葉で、大地のエネルギーの流れを示します。<龍脈>によるエネルギーが流れ込んでいる地域は栄え、この流れが切断されるとその都市は衰退します。
私は<聖地>の選定に関しては、人間が<変性意識状態>に成りやすいか、どうかということが絡んでいると考えています。まだ、確定的なことはいえませんが、私の調べでは、<聖地>と言われる土地では、重力や地磁気の異常が見られるようです。これによって、幻覚や幻聴が発生しやすくなるということです。
ところで、<sion>さんは、<ニッポン国>では古代王朝では、<霊的国防>ということを意識して、<風水>でいう<四神相応>に則った首都造りをしたことはお聴き及びかと思います。古代の首都の選定に関しては、<龍脈>によって大地のエネルギーが流れ込み、さらには鬼門や裏鬼門から外敵が侵入しないように万全の体制が取られました。そのために、お抱えの<陰陽博士>が活躍したのです。そして、現在の<エド>に遷都される際も、<霊的国防>のための魔方陣が組まれたのです。
<sion>さんが言われるように、闇の勢力が活動し、この<ニッポン国>を虚無の世界に沈めようとしているならば、彼らは、まずこの<霊的国防>を破壊しようとするでしょう。つまり、<龍脈>の切断です。」
「それは何によって。」
澱みなく語り続ける<プロフェッサー神村>を、<sion>がさえぎった。
「そうですね。私がその立場でしたら、さしづめ、地震でも引き起こすでしょうか……。」
銀縁眼鏡の奥で、<プロフェッサー神村>は静かに微笑んだ。
この男は、黒魔術勢力ではない。しかしながら、地震を起こす方法も、知っているというわけか。<sion>は、男の表情から、そう判断した。
# by rhizome_1 | 2004-10-18 20:36 | 創作

空の饗宴(22)

例えば、国家社会主義者が戦争を策動するのは、国家という価値を信じているからだ。彼らは、<私>という価値よりも、<公>の価値を優先させる。
その結果として、国家のために、生命を散らし、殉じた人々を美化し、褒め称える。
前世紀、<ドイツェ帝国>に現れた<アドルフ>という独裁者は、民族浄化を唱え、優生政策を推し進め、ついには<ユダ民族>の殲滅を企てた。<アドルフ>によると、<ユダ民族>よりも<ドイツェ民族>が優れているのは、<ドイツェ民族>は国家という美徳のために、自らの生命を絶つことができることでもわかるという。
この類いの人物は、今世紀の<ニッポン国>にも存在する。
<ゴーマニスト>を自称する或るデマゴーグは、先の世界大戦で、<公>のために<私>の生命を犠牲にした特攻隊員を褒め称え、<ニッポン民族>の優秀さは、エゴイスティックな私心を超え、全体のために殉じる高度な倫理性によって証明されるとしている。
現在の<ニッポン国>の権力の中心にいる<KOIZUMI>もまた、自身が世界を統べるものに生成変化することに、陶酔するタイプの人間である。
<アドルフ>の場合、自身の組織した秘密警察によって、<ユダ民族>を問答無用で逮捕し、ガスかまどの中で青酸ガスを吸わせ、抹殺することに、甘美な喜びを感じていた。
<KOIZUMI>の場合も、自身の組織した刑殺によって、自身の敵対者や、不要と認めた者を、超法規的に逮捕し、法的な適正手続きなしに、口を塞ぐことに、非常な誇りを感じていた。
彼らは、自身の殺人行為を<善>であると確信し、自身の虐殺行為を<実践理性>に基づく<倫理的行為>であると考えていた。彼らは、自身の思考を<完全>であると考えていたから、自身の思考を疑うことをしなかったし、<疑問>を投げかけてくる他者は、ことごとく<抹消すべき他者>として認知した。
だが、私が世界を終わらせたいのは、<国家>のためでもないし、ましてや死んでから久しい<神>のためでもない。
私は<虚無>のために、世界を破滅に陥らせたいのだ。
私に言わせれば、<アドルフ>も<KOIZUMI>も、まだまだ甘い。彼らは守るものがあるだけ弱いのだ。
私は、世の中のありとあらゆる<美徳>を侮蔑している。<美徳>などというものは、弱者が強者から身を護るためにつくったフィクションに過ぎず、そこには弱者の強者へのルサンチマンが隠されていると考える。
国家社会主義者、要するに全体主義者の<国家に殉じるという美徳>も、魔瑠苦棲主義者の考える<歴史的使命に殉じるという美徳>も、キリスト教徒の考える<神に殉じるという美徳>も、ことごとく現実世界に生きる能力のない弱者が捏造したフィクションに過ぎないと考える。
私は、一切の総破壊の果てに、何かを残そうとは考えない。
<国家>も<神>も……<畜群道徳>など糞食らえだ!
手始めに<ニッポン国>を、暗黒に落とす!
<ゾンビ戦隊デンジャラス>と<ニコラ・テスラの装置>を使って、龍脈を破壊し、大地の生命を奪う!
<くらやみ男爵>の計画は、着々と進行しつつあった。
# by rhizome_1 | 2004-10-06 10:26 | 創作

空の饗宴(21)

時間を停止させた部屋の中に、<くらやみ男爵>が忍び込んだ。
ここは、新進アーティストの<与太郎>の部屋である。<与太郎>の作品は、フィギュア製作を軸に、CG、小説、音楽など多岐に渡っているが、共通するコンセプトがある。それは、シミュラクル(模造)ということである。現実そっくりのシミュラクル(模造)を造り、いつか現実をまがい物で差し替えてしまうこと。「悪貨は良貨を駆逐する」、それと同じように「シミュラクル(模造)が、現実を侵食する」のだ。アーティスト<与太郎>のライバルは、万物の創造主である<神>であった。
先ごろ行われたアーティスト<与太郎>の個展のパンフレットの冒頭には、<与太郎>自身の言葉が書かれている。
「芸術のねらいは、<神>によってなされた創造を改めることである。<神>によってなされた創造が、完全であるならば、芸術のつけ入る隙はない。芸術家は、<神>による創造を改めることで、<神>に反逆する。芸術家は、すべからく悪魔主義者でなければならない。」
悪魔主義者!果たして<与太郎>は、なにを契機に悪魔主義者に変貌したのだろうか。ひとつには、このパンフレットにも書かれているように、澁澤龍彦の『夢の宇宙誌』と竹本健治の『ウロボロスの偽書』の影響もあっただろう。澁澤龍彦の『夢の宇宙誌』は、西欧のエロティシズムやオカルティズムを主題とした異端の文学や思想を基に、美しい宇宙像を構築しようとする試みであり、竹本健治の『ウロボロスの偽書』は、現実と虚構の境界線が崩壊し、現実の絶対的な基盤が失われる世界を描く試みである。しかし、それらの影響だけで<与太郎>は、悪魔主義者に変貌したのだろうか。答えは否である。
アーティストとしての<与太郎>は、決して苗字を名乗らない。たまに苗字を知っている美術評論家が、苗字で呼ぶと、酷く激怒するという。しかも、<与太郎>という無頼派を伺わせるアーティスト名である。私もよく知らないのだが、<与太郎>の生家は、<ニッポン国>のさる有名な伝統芸術家の家であり、彼の父親は<家元>と呼ばれる身分であったという。彼の反逆は、この父親に対するものであったと推測される。
だが、<与太郎>の悪魔礼拝は、<くらやみ男爵>につけ入らせる原因となってしまった。
この<くらやみ男爵>は、<宗像冬貴>の思いついた奇想を、<与太郎>を通じて実現させようとしていた。<与太郎>は、現実の人間と見間違えるほどに精巧なフィギュアを造ることができるアーティストである。<与太郎>が精巧であることにこだわるのは、精巧であればあるほど、<神>の造った世界への侮蔑になると考えていたからである。だが、<与太郎>の限界は、このフィギュアが未だ動かないことである。<くらやみ男爵>は、<与太郎>のつくったフィギュアに、<月の魔術>をつかって生命を吹き込むことである。
<宗像冬貴>の思いついた奇想とは、<ゾンビ戦隊デンジャラス>である。B級小説家ならではのアイデアである。<与太郎>のつくったフィギュアは、本物の人間ではない。ぼろぼろになるまで、生命を吹き込まれる度に、甦ってくるはずである。それを何体もつくり、戦隊を組ませるというのが、<宗像冬貴>が頭の中で<アリョーシャ>を殺害するために考えた妄想である。<宗像冬貴>は、憎んでも憎み足りない相手を、そうやってなんども頭の中で殺害するのを隠微な愉しみとしていたのである。
<くらやみ男爵>は、時間を停止した部屋の中で、作業を開始した。まずは<与太郎>のつくったフィギュアに、霊力を及ぼし、生命を与えること。次に、<与太郎>の記憶をいじくり、これらのヴァージョン・アップされた人形を、自身が作ったと思い込ませること。また、<与太郎>には、今後人形つかいとして行動して貰わねばならないから、攻撃目標もインプットしておく必要があるだろう。
静止したものを動かすには、精霊AGREASを召還すればよい。AGREASの別名は、AGARES公爵。彼は鰐に乗り、こぶしの上に大鷹を止まらせて、美しい老人の姿で現れる。かつて力天使の階級にあり、31の霊の軍団を支配下においている。彼の力を持ってすれば、死んだフィギュアに生命を与えることや、地震を起こすことなど、朝飯前である。また、霊的なものであろうと、世俗のものであろうと、位を破壊する力も有しているという。
「<宗像>の攻撃目標は、<アリョーシャ>だったようだが、あくまでも私の目標は世界を終わらせる方にあるんでね。大いに愉しませてもらうよ。うひゃひゃひゃひゃ。」
<くらやみ男爵>の下品な笑い声が、時の止まった黄昏の世界に虚ろに響いた。
# by rhizome_1 | 2004-09-26 17:39 | 創作

空の饗宴(20)

<鷹里>くんと、肌を重ねる。
<鷹里>くんの体は冷え切ってしまっている。裸で抱きしめる以外に、お馬鹿な私には、<鷹里>くんの体温を取り戻す方法が思いつかなかったのだ。
男の体で<鷹里>くんを抱きしめることは、抵抗がないわけではなかったが、私は<鷹里>くんを目覚めさせるためならば、どんなことでもするつもりだ。
ごつごつとした節くれだった手で、意識を失ったままの<鷹里>くんの顔をなぞってゆく。
私は<鷹里>くんの美形の顔が好きだ。いつも心の中で、<鷹里>くんをうっとりと眺めていた。<鷹里>くんにいつもイジワルな態度をしていたのは、そういう自分をさらけ出すことに照れがあったせいだ。現在の自分は、女の体だった頃に、<鷹里>くんをあいせなかったのが悔しい。しょうもない羞恥やプライドのせいで、貴重な時間を無駄にしたのだ。
<鷹里>くん、死なないで!
早く、目覚めて!
私の体温をすべて<鷹里>くんに捧げつくすように、愛撫を行う。<鷹里>くんの体を、KISSで埋めつくすのだ。
私の愛撫は、私の快楽のためではなく、すべては<鷹里>くんの命を蘇らせるためのものだ……だが、なんということだろう……次第に汗ばんでゆく体の感覚のせいで、私の体が反応し始めている……これが男の体の反応というものなのだろうか……けがらわしい<I 刑殺官>の体が反応しているのだ……私の心が<I 刑殺官>の体のせいで穢されてゆく……知りたくない……こんな快楽など、知りたいとは思わない……私が<鷹里>くんと肌を合わせているのは、<鷹里>くんの命をつなぎとめるためであって、私のエゴのせいでは決してない……決してないはずなのに、<I 刑殺官>の男の体から、欲望がつきあげてくるのをかんじる……予想以上の快楽に、私の精神は焼き切れそうになっている……こんなはずじゃなかったのに。
<I 刑殺官>の記憶を探る……眼を背けたくなるような光景が広がる……なんてことなの……この人は女性をどう思っているのかしら……しんじられない……どうしてこんな男の体の中に、私はいなくちゃならないの……だが、あんなことをしなければ、途方もない<I 刑殺官>の過剰な欲望は、危険な方向に暴発することは眼にみえている……<I 刑殺官>の欲望を、ひとりの女性が受け止めるなどということは不可能だ……だから……ああ、私は何を考えているのか……。
<鷹里>くん、ごめんね。私、<鷹里>くんに欲情し始めているのかもしれない。
こころが、壊れる……。
そのとき、<鷹里>くんが、目を開けた。先ほどまで、冷たくなっていた体に、赤みがさして来た。
だが、<鷹里>くんは私を見るなり、怯えた表情をして、部屋の片隅に逃げた。無理もない。裸のマッチョな男が<鷹里>くんに乗っかかっていたのだから。
<鷹里>くんは震えて、歯をガチガチ音を立てた。そして、服を脱がされた自分の体を、確かめるように見ていた。自分の身に何が起きたのか、不安に思っているのだ。
「<鷹里>くん、私は……。」
ああ、どうしても男の太い声しか出ない。だが、この声で信じてもらうしかない。
「私は<Keen>よ。信じてもらえないかも知れないけど。あの緑色の怪物と融合した私は、霧状になり、<I 刑殺官>の体を乗っ取ったのよ。だから、こんな体をしていても、心は<Keen>なのよ。そうでなきゃ、あなたを助けたりはしない。」
私は涙を流していた。
<鷹里>くんは、驚愕の事実をつきつけられて、パニックに陥っているようだ。
「ぼ、ぼくは<Keen>を殺した。」
「だけど、こうして生きているのよ。男の体になってしまったけれど。」
「す、すまない。許してくれ。ぼ、ぼくは、君が邪魔になった。自分を正当に評価してくれないと苛立っていた。本当は一番評価してほしかっただけなのに。」
<鷹里>くんは、まるで亡霊を前にしたように、私にひれ伏した。
「<鷹里>くんに殺されたときは、哀しかったけれど、これは私が自分の気持ちに素直になれなかった当然の報いなのよ。今ならば、勇気をもっていえる。本当は、私、<鷹里>くんのこと、大好きだった。もはや、遅すぎたかもしれないけど。」
涙がとめどなく流れ、顔がぐしゃぐしゃになる。繊細な神経の欠如したような筋肉男が、声をあげて泣き始めた。
そんな私に<鷹里>くんが近づき、私の頭を抱えて、ほおを摺り寄せてきた。
「遅くはないよ。君をこんな体にしてしまったのは、ぼくの責任だ。最後まで君を引き受けるよ。愛してる、<Keen>。」
そういって、<鷹里>くんは、私にディープ・キスをしてきた。こうして、ふたりの男女が、男同士の体を介して愛し合うに至った。人には言えないことだけど……人には決して言えないことだけど……。
# by rhizome_1 | 2004-09-16 21:32 | 創作

空の饗宴(19)

<鷹里>くんは、気絶している。死ぬ思いをしたことで、限界を超えてしまったのだ。
愛しくて、分厚い唇で、<鷹里>くんの唇にブチュッとやる。
女の子の体の時は、素直になれなくて、<鷹里>くんにイジワルばかりしていたのになぜだろう。
きっと、私も限界を超えてしまったのだ。
筋肉隆々の<I 刑殺官>の体に入って、逆説的に女の子らしい気持ちになっている。こんなに素直な私が可愛いとすら思える。
<鷹里>くんの体が、冷たいのが気になる。心臓の鼓動はあるけど、弱っているのは確かだ。
<鷹里>くんの肩を担ぎ上げる。
いつもは大柄に思えた<鷹里>くんの体が、今では女のようにか弱く思える。
意識を失ったままの<鷹里>くんを担いで、早々とこの場を立ち去らねばならない。
<I 刑殺官>の頭脳の中から、逃走回路を探し出す。
廊下を曲がったところで、向こうから<M 刑殺官>が歩いてくるのに気づいた。
どうしよう。このまま逃げれば、怪しまれるのは必至だ。
右腕で<鷹里>くんの服の背中を握り、腹話術の人形を持つように持ち上げる。
こめかみに汗が流れる。
「よぉ!」
<M 刑殺官>が語りかけてくる。
「どうしたんだ。そいつは<杉澤鷹里>だな。」
「そうだ。取調べの途中だ」
「なんだ。まだ例の生物の餌食にしていないのか。」
<M 刑殺官>がつっこんでくる。
「いや、なに。まだ、聴き足りないことがあるからな。」
「馬鹿にこの男、うなだれているな。」
「ははっ。いや、取調べのあと、あの化け物の餌になると教えてやったから、元気がないだけさ。ははっ。」
笑って、ごまかそうとする。
「そうか。それにしても、今日のお前、なんだか変だな。なにかぎくしゃくしたしゃべり方だし、さっきから相当汗をかいているな。熱でもあるんじゃないか。」
<男言葉に慣れないせいさ。さっさと立ち去れ。こいつ。>と思うが、無論、口に出してはいえない。
「そちらこそ、どうした。なんだか。暇そうだな。」
「暇じゃないよ。例の現場に居合わせたゴスロリの少女が、病院の監視カメラに写っていたんだ。今は、その解析で忙しい。調べによると、<sion>という名前らしい。」
「なんだ、そのゴスロリというのは。」
「ゴシック・ロリータのことだよ。クラシカルな割りに、レースのひらひらがついていて、大人っぽさと幼児性が同居しているような……刑殺だからといって、ファッションのことも少しは知っておくべきだぞ。
それから驚くべきことがある。先週末、このビルに<しをん>という日本刀を持った女性の乱入者があっただろ。なんと<しをん>は<sion>の双子の姉らしい。まだ、詳しいことはわからないけどな。」
<しをん>は<sion>?同居家族で、同じ名前では不都合ではないか、と思う。
私は<M 刑殺官>が立ち去ったのを確認し、最大の難所を越えたと思った。あとは、セキュリティーカードを使い、裏口から出ればいい。
# by rhizome_1 | 2004-09-11 18:43 | 創作

ペコちゃん 大好き!!

ペコちゃん  大好き!!_b0008581_11391829.jpg

ペコちゃんが好きです。
これは最近入手したペコちゃんです。
どう?
かわいいでしょ!
# by rhizome_1 | 2004-09-11 11:39 | エッセイ

空の饗宴(18)

<I 刑殺官>は、嫌がる<杉澤鷹里>に無理やり緑色のアメーバの入ったカプセルを数錠飲ませ、ガラス張りの無菌室に入れた。
ガラスは強化ガラスで、しかも金網が入っているから、どんなに<杉澤鷹里>が暴れても、脱出は不可能である。
集められているデータが正しければ、緑色のアメーバは、やがて<杉澤鷹里>を内部から捕食し、自分の体内の中で、高速度で<杉澤鷹里>の細胞をガン化し、自己の体の一部に作り変える。最終的に<杉澤鷹里>の姿はなくなり、緑色の巨大な化け物になるはずである。
<刑殺>は、この生物を一種の生物兵器として利用することを考えていた。例えば、巨大なカプセル爆弾にこの生物を搭載し、敵国に落とすことで、その国の人間を絶滅の危機に陥れることも可能である。あらかじめ、この緑色の怪物を封じ込めるテクネー(技術)を有していれば、その国の民衆を滅ぼした後で、領土を手に入れることができる。それは、21世紀に<ニッポン国>をぶっ壊し、他国を接収して<大ニッポン帝国>を創ろうとする<KOIZUMI>にとって、切り札となる可能性を秘めた兵器である。
<I 刑殺官>は、そんな大義名分とは別に、サディスティックな自分の喜びという目的を持っていた。人間がのたうちまわり、玉のような汗をかきながら、苦痛の表情をうかべる姿を見るのは、なにとエロティックなことか。
<I 刑殺官>は、かつて軍隊直属の生物兵器研究所で、腹の中から軍隊蟻に食われる捕虜の姿を見たことがある。その捕虜は、もはや「人間」であることを止め、糞尿を垂れ流し、最後は大量の血を吐いて絶命した。無数の蟻がたかり、その血を舐めていた。
あの軍隊経験によって、正常の識域を外れたのだと思う。それまで、異常なものへの嗜好は、うすうす気づいていたのだが、それを制し切れなくなってしまった。普通の刺激では、なにも感じないのだ。鮮血に包まれて絶命する捕虜の姿が、しっかりと頭脳に刻み込まれ、死に直面した男のあえぎ声によってしか、リアル感を覚えなくなってしまったのだ。普段、本当の自分は、平和すぎる日常にうんざりしながら、眠りこけている。相手の自由を完全に奪い、その生死を左右する権利を掌握し、死ぬほど苦しめることだけが、本当の自分を覚醒させる。
そう、自分は異常者なのだ。禁忌の境界を違犯することなしに、心沸き立つことがない。
だから、緑色の化け物を見たときは、久しぶりにワクワクした。緑色の化け物は艶があり、周りの光を反射して、見る方向によって少し色が変わって見えた。
これが人間の細胞を捕食する過激なアメーバなのか。
だが、モニターごしに見る<杉澤鷹里>は、一向に苦しむ様子がない。やがて、緑色のアメーバは、<杉澤鷹里>の口もとや耳から流れ出てきた。
これはどうしたことだろうか。緑色のアメーバは、なにかの規則性によって、相手を捕食したり、しなかったりするということなのか。あのアメーバに、意思があるということなのか。また、これは<杉澤鷹里>をまずいと判断したということなのか、それとも……。
<杉澤鷹里>の体内から出てきた緑色のアメーバは、薄く引き延ばされ、ぺちゃぺちゃといやらしい音を立てながら、<杉澤鷹里>の体表を舐めているようである。しかも、一向に<杉澤鷹里>を食べる気配はなく、<杉澤鷹里>を愛でているようにも見受けられる。
<I 刑殺官>は、<杉澤鷹里>の研究ノートの一節を思い出していた。「この生物は、凶暴な肉食獣を捕食すると、自身の性格も凶暴化し、より活発な運動を見せるようになる。」
あの緑色のアメーバは、<杉澤鷹里>の助手の<Keen>という娘を捕食している。<杉澤鷹里>を愛玩する緑色のアメーバには、この娘の深層心理の影響を受けている可能性がある。
実験は失敗か。慌ててモニタールームを飛び出す。<I 刑殺官>は、自分の考えた想像が外れたことを意識していた。
ガラス越しに、中の様子を伺う。緑色のアメーバが、気絶した<杉澤鷹里>の体から離れ、ガラスの壁に伸びている。モニタールームから、この無菌室に自分が移動するまでの間に、移動したようだ。ガラスの下に、緑色の液体が染み込んでいる。
大丈夫か。このガラスは、細菌ですら完全に隔離することができる。当然、アメーバなら、隔離は大丈夫なはずだ。
しかし……緑色の靄のようなものが、無菌室の外側まで立ち昇っているのが見える。この生物は、気体にすら姿を変えるのか。愕然として、足がかたかた震え始める。
うっ……緑色の気体がすっと自分の鼻腔に入り込む。
な、なんなんだ。
目の前が暗くなってゆく。どうやら気体は、<I 刑殺官>の脳髄に入り込んだようだ。
意識が完全に失われ、脳のなかのスクリーンが暗転した。崩れ落ちるように、<I 刑殺官>は倒れる。

数分後、<I 刑殺官>は目覚める。幸い誰にも見られてはいない。不敵な笑みを浮かべる。
その瞳は、緑色に輝いている。
「<鷹里>くん、待っててね。いますぐ、開けるからね。」
ドスの利いた声で、女の子のことばを話す。
ポケットの中のリモコンを探す。自分のポケットに入れたとの記録が、<I 刑殺官>の記憶中枢にあったからだ。
手にいれた体は、マッチョな男の体だが、この際仕方がない。<keen>は、探し当てたリモコンのスイッチを押し、強化ガラスの壁を開いた。
# by rhizome_1 | 2004-09-07 19:41 | 創作

空の饗宴(17)

「何だ。これは。」
<宗像冬貴>は、インターネットで自分の名前で検索し、世間での評判がどうなっているか、確認するのを日課にしているが、その日見つけたサイトは「討論・<宗像冬貴>をめぐって」というサイトであった。
そこでは、<アリョーシャ>という人物と、<はらぴょん>という人物が対話をしていて、<宗像冬貴>の悪口を言っていたのだった。
<アリョーシャ>というのは、面識のある人物で、かつて<宗像冬貴>ファンを名乗って接近してきた男だが、現在の<宗像冬貴>は、自分の世間的な成功のために、新本格ミステリー作家連盟という利権構造を生み出し、堕落するに至ったと非難していた。
<はらぴょん>というのは知らないが、どうやら昔ブームだったポストモダニズムにかぶれた現代思想おたくのようだ。
非常に不愉快な連中だが、これらに言及すれば、かえって彼らが注目され、自分に敵対する連中が増える可能性があった。
とりあえず、無視を決め込むか。<宗像冬貴>は、そう考えた。
「しかし、これは……。」
そこで<アリョーシャ>が問題にしているのは、最近<宗像冬貴>が絶賛して、解説を書いた<茄子しめじ>の『殻の狭界』の文章力についてであった。<アリョーシャ>によると、『殻の狭界』には意味不明の文章が並んでおり、書き手の理解力の乏しさが露呈しているという。そして、こんな駄作を評価した<宗像冬貴>の狙いは、単に<新本格>ブームの次に、<新伝綺>ブームを起こし、また新伝綺作家連盟でもつくって、権力をふるいたいだけなんだろう、という。
「そんなことが書いてあるのか。」
<宗像冬貴>は、手元にある巷談社ノベルスの二巻本に手を伸ばした。
<茄子しめじ>の『殻の狭界』は、上下巻に分かれている。その両方の巻末に<宗像冬貴>の解説がついている。
これは、上巻だけ買って、下巻を買わない人にも、<宗像冬貴>の偉大さを判らせてやる処置なのである。
<茄子しめじ>は、同人サークル<月型>に所属するライターで、その同人サークルから刊行された美少女ゲームは、莫大なセールスを記録している。そのため、数々の追随者を生み出し、その美少女ゲームの主人公のパロディ本が相当出回っている。
『殻の狭界』は、<茄子しめじ>の小説第一作であり、巷談社ノベルスから刊行されることで、<茄子しめじ>の名前をメジャーにしようとしていたのである。
一方、<宗像冬貴>は<新本格>だけの覇権にそろそろ飽きかけてきていたころだった。そして、本格ミステリー『グッバイ、エンジェル』が<新本格>の先駆といわれるようになったように、『九鬼吸血鬼伝』が<新伝綺>の先駆と呼ばれるようになるのも悪くないな、と考えていた。
それに、伝綺小説ならば、人類絶滅という血なまぐさい夢を描くことが許される。仮にミステリーで、それを描けば、自分が構築なき<脱格系>の代表として批判してきた蘇譜都怒鈴玖(ソフトドリンク)の書く大説のように、荒唐無稽な話と言われてしまうだろう。
つまり、『殻の狭界』の巻末解説は、メジャーデビューを目指す<茄子しめじ>と、自分の覇権拡大を狙う<宗像冬貴>の思惑が一致したことによる産物だった。
しかし、解説を書いたというのに、<宗像冬貴>は未だ『殻の狭界』を部分読みしただけで、通読していない。
そもそもゲーム作家ごときが、自分のようなエンターテイメント文学の大家に、通読してもらおうというのが間違いなのだ。自分は、彼らのファンの一部を、自分の読者に横取りしたいだけなのだ。
ミステリー系の専門誌に、<宗像冬貴>は現在三本のミステリー長編を掲載している。さらに書評を数本。
<宗像冬貴>は、自身のミステリー『フィロソフィーの密室』を刊行する前に、一流国立大の院生に下読みさせていた。
その後も、月に数本の書評を書くために、下読みのアルバイトを雇っていた。アルバイトは、小説のあらすじのレポートを書くと同時に、注目すべき箇所に付箋をして、マーカーで印をつける。<宗像冬貴>は、部分読みで、書評を書くことができるわけだ。
「<茄子しめじ>の『殻の狭界』が、こんな駄作だとは……。特に最初の部分は、初めて小説を書き始めた習作の色合いが強く、なにを言わんとしているかすらつかめない。ぎごちなく、読むに耐えない文章が並んでいる。」
なぜ、こんな駄文が続いているのに、アルバイトは知らせてくれなかったのか。<宗像冬貴>は、怒りで切れそうになっている。<宗像冬貴>の脳裏に、今回レポートを書いた院生の顔が浮かぶ。出版社からもらったアルバイトの履歴書を確認する。
趣味に「ゲーム」の記載があることを確認する。
「特殊な思い入れで、読んだのか。」
<宗像冬貴>の表情が、苦々しい表情に変わる。
「なんてことだ。なんてことだ。」
<アリョーシャ>の得意満面の笑みが浮かぶ。
殺したい。
<宗像冬貴>の頭脳の中で、悪意が形作られ始める。<宗像冬貴>の想像力は、凡庸なものだったが、悪意から生まれるときだけは非凡だった。奇想天外な方法で、<アリョーシャ>を殺すのだ。
それを見て、<くらやみ男爵>がニヤリとしたことは、言うまでもない。
# by rhizome_1 | 2004-09-01 18:11 | 創作

空の饗宴(16)

<宗像冬貴>は、ミステリー、SFの作家であり、思想家・評論家であった。
高校を中退し、学生運動をするために大検で大学に入学し、後に除名になっている。彼は政治活動家時代に、飯井田桃香率いる新左翼系の党派に所属し、<黒木竜視>と名乗り、雑誌「革命戦線」「流動思想」などに政治思想論文を投稿し、イデオローグとして活動した。
その党派では、彼は<ニッポン国>と、<アメリカーナ帝国>を中心とする帝国主義勢力に対する爆弾闘争を正当化する理論を、量産する使命を任せられていた。
やがて<ニッポン国>の特高の捜査が迫ると、自身は<フラン共和国>に国外逃亡を図った。ちなみに、特高は、後の刑殺の前身となる組織である。
彼は潜伏先の<フラン共和国>で、かつて熱中した魔瑠苦棲主義思想を葬送する評論『テロリズム批判序説』と、ミステリー『グッドバイ、エンジェル』を書き上げた。
彼の転向は、たいした苦悩もなく、スムーズに行われた。
もともと誰か人のための革命など、まったく考えていなかったのだ。
ただ、<ニッポン国>や<セカイ>一般を、焼土の山に変えるような徹底的な破壊を望んでいただけなのだ。
彼は自分を正当に評価してくれなかった家族や学校といった共同体を憎んでいた。彼らは、血縁や地縁、そして利害関係で強固に結びつき、安穏とした閉鎖空間を作っていた。彼は、それらを根底から破壊し尽くし、血祭りに挙げたかったのだ。
彼は自身の中の新左翼思想を一掃し、<黒木竜視>という筆名を捨てた。そして、<ニッポン国>の特高と、かつての仲間の情報を提供する代わりに、自分だけ逮捕を免れるという取引を行い、再び<ニッポン国>に帰国した。
彼は大手の出版社の主宰するエンターテイメント系の小説の新人賞を受賞し、『グッドバイ、エンジェル』でデビューした。
当時のミステリーは、社会派が主流で、本格派は過去のものとして廃れていた。<宗像冬貴>のミステリーは、本格派に属しており、その当時としては異色であった。
なぜ、本格派なのか。そこには彼の内心の秘密がかかわっていた。
魔瑠苦棲主義を捨てたとはいえ、彼は<セカイ>を破滅させたいという欲望を捨てたわけではなかった。
彼は本格ミステリーという反リアリズムの世界の中で、思い存分、残虐な話や、良識人が眉をひそめたくなるような淫らな倒錯の世界を追及した。それは、彼の欲求のはけ口であった。
彼はミステリー作家として地歩を固める一方、作家としての知名度を利用し、『テロリズム批判序説』等の評論を刊行し、批評家・思想家としても活躍し始めた。彼は趣味的なミステリーの書き手としてだけでなく、二十世紀の偉大な精神的指導者となる欲望を捨て切れなかったのである。
彼は魔瑠苦棲主義の葬送を唱えたが、自分の考えた理論によって、人々を意のままにコントロールできる快楽を捨ててはいなかったのである。<宗像冬貴主義>にかぶれた人々が殺しあったり、自殺したりする、それはなんと甘美なことだろうか、と考えたのである。
<宗像冬貴>の批評の枠組みは、個人と共同体、政治と文学を対立させて考える凡庸なものであり、そこに盛り付けされた思想も、旬を過ぎた実存主義を、馬態油のエロティシズム論で粉飾しただけのものであった。思想界の主流は、大学の若手研究者によるポストモダニズムに移ってきており、<宗像冬貴>のような一時代前の思想は無視される傾向にあった。自尊心の高い彼にとって、このことは非常な屈辱であった。
一方、表看板のミステリー作家<宗像冬貴>としての世間的な成功も、今ひとつであった。それは、彼のミステリーの作風が、トラベルミステリーや冒険小説全盛の時流に反したものであったからである。彼は社会的な成功のために、売れる小説を書くことにした。それが『九鬼吸血鬼伝』全11巻である。
『九鬼吸血鬼伝』は、SF伝奇小説であり、<セカイ>の権力組織という悪と、<吸血鬼>と<縄文一族>という善が戦うというアクション大作であった。これによって、彼は八ヶ岳に<吸血邸>という豪邸を建てることができた。
後に<宗像冬貴主義>にかぶれた若者が、カルト宗教<Ω真理教>に入信し、『九鬼吸血鬼伝』で書かれた縄文民族解放闘争のために地下鉄サリン事件を実行したと聞いた彼は、嬉々として喜んだという。もっとも、世間からの非難を回避するために、<Ω真理教>によるテロの責任は、ポストモダニズムの思想家のせいにする抜け目のなさは忘れなかったが。
<宗像冬貴>がSF伝奇小説を書いている間に、社会情勢は大きく変わり、東欧が自由化し、ソ連が崩壊した。これらは魔瑠苦棲主義による理想社会<水晶宮>であると自称していた国家群であった。やはり、人工楽園という不自然なものは、長続きしないということなのだろうか。
変わったのは、社会情勢だけではない。魔瑠苦棲主義に立つ経済学や哲学・思想、およびソフト魔瑠苦棲主義というべき社会変革の思想すべてが、退潮を余儀なくされたのである。<ニッポン国>も、エンペラーが崩御し、元号が変わった。これと時を同じくして、反エンペラーをテーマのひとつにしていた伝奇小説も、廃れていった。社会主義リアリズムは劣勢となり、社会派ミステリーよりも、本格ミステリーが再び隆盛を見せるようになった。
抜け目のない<宗像冬貴>は、売れなくなってきたSF伝奇小説から、新本格ミステリーに活動の主軸を移すことにした。そして、評論の舞台もミステリー評論に移すことにした。
ミステリー業界でイニシアチヴを取ることは、比較的容易だった。新本格のブームの前から、本格ミステリーを書いてきたことで、その後のブームの先駆者として敬意を得ることが出来た。また、本格的な評論が確立していたとは言いがたいミステリー評論の分野で、頭角を現すにも時間はかからなかった。
<宗像冬貴>は、オルガナイザーとして、新本格ミステリー作家連盟を結成することに成功し、新本格の書き手にして、新本格分野を擁護する理論家として、社会的な評価を得るに至った。同時代の精神的指導者となる夢が、ある程度実現されたのである。
しかし、これで夢のすべてが実現されたと言えるのだろうか。
答えは否である。
<宗像冬貴>の夢は、人々の生殺与奪の権利を掌握し、<セカイ>の総破壊に至らせること。血なまぐさい夢は、まだ実現されていなかった。
<くらやみ男爵>が眼をつけたのは、<宗像冬貴>のそんな部分であった。<宗像冬貴>の残虐な夢想に、<月の魔術>でかたちを与えること。そうすれば、一切を虚無の暗闇に陥れることができるだろう、<くらやみ男爵>は、そう考えていた。
# by rhizome_1 | 2004-09-01 15:48 | 創作

空の饗宴(15)

きみはファウストとメフィストフェレスの契約のシーンを憶えているだろうか。
あれは血の署名によって悪魔と契約を結ぶ話だ。
だが、悪魔というものは、血の契約なくしても、人間の魂のマイナス面に引き寄せられて現れるものなのだよ。
哀しいかな、悪魔は人間との紐帯ができてこそ、この世に留まることができる。
本当のことを言えば、悪魔というものは実体のないものであり、人間の魂のマイナス面が悪魔を実体化させるのだ。
全身鱗で覆われた爬虫類の体が、私の特徴だ。
私の名は<くらやみ男爵>。
私はきみの端正な顔を、爬虫類の手で愛撫する。
きみは全人類を骨の髄まで憎み、絶滅することを希求している。
私はきみの作品を読んだ。感動した。
「涅槃の惑星」というSF作品だ。この作品は『エディプスの街』に収録されている。文明の発達した未来社会において、人類はあらゆる欲望が実現され尽くし、進化の限界に到達している。残されたエクスタシーは、人類の総自殺という至高の禁忌を侵犯すること。<涅槃推進委員会>は、人類の総自殺に向けて、人類絶滅計画を発動する、というものだ。
きみの欲望は、きみ自身の作り出した観念によって、人類の生殺与奪を思いのままにすることなのだ。きみは生殺与奪を握ることが、絶対的な権力であるということを知っていた。
誰かのつくった観念、例えば髭のユダヤ人のつくった観念ではなく、自分自身のつくった観念によって、面白いように人を操作すること、それが重要なのだ。
私は知っている。きみは常に、自身が正当に評価されてこなかったという意識を抱き続けていた。家庭では成績優秀な兄との比較を余儀なくされ、学校ではSFやサブカルチャーに無理解な組合の教員から出来の悪い子供の烙印を押された。この隠蔽された劣等感は、きみの魂の中で人類の憎悪へと変化した。
なにものかに支配されるのではなく、なにものかを支配すること。
憎悪に憑かれた獣であるきみは、あらゆる社会的権威を侮蔑し、美徳を蹂躙することを好んだ。それを新たなる正義の名のもとに、きみは行動したが、その正義とは隠蔽された劣等感に基づく憎しみを取り繕ったものに過ぎなかった。
きみは反体制的な正義を掲げる政治活動家を罵倒し、彼らの中に「敵を殺せ」という醜いルサンチマンに由来する際限のない憎悪を暴き立てた。かれらの求めるものは、絶対的な弁証法的権力であり、全体知による人間の支配であり、目的達成のためには手段を選ばないテロリズムであると、きみは主張した。
きみは正義のために彼らを非難せねばならなかったという。しかし、きみの主張する正義にも、実はそれ以上に狂った「敵も味方も関係なく、皆殺しにせよ!理由もなく、むやみやたらと殺せ!」という欲望が、言葉の背後で舞い踊っていた。
人類絶滅、それこそがきみの望んだものだ。
かつて反・核兵器のシュプレヒコールが街を埋め尽くしたころ、きみは「自分は反・核兵器ではなく、反・核シェルターを唱える。みんな一緒に死のう!」と主張した。あれはきみの本心だったと思う。
もはや何が正義か、悪なのか、ということは問題にならない。
ひとつの快楽が、きみの魂を貫通する。それは人類絶滅に向けて、ひた走りに走る君自身に、ヒロイスティックに酔いしれるきみ自身を意識するときに起きる。
A10神経にドーパミンが流れ込み、恍惚状態が訪れる。
殺せ!殺せ!敵も、味方も、正義も、悪も関係なく、理由もなく、片っ端から、殺しまくれ!
きみに私の姿は見えないのだろうが、私にはきみの魂までも見える。どこか腐臭のする冷え切った魂のかたちが。
私はきみの魂が好きだ。<宗像冬貴>、きみの魂は、わたしのものだ。
# by rhizome_1 | 2004-08-31 22:37 | 創作

空の饗宴(14)

「<天童博士>、相談があるのですが。」
<sion>はそういって<天童博士>を、海底の部屋から、海上に突出した島の海岸に連れ出した。
<sion>と<天童博士>は、海岸近くの椰子の木陰に身を下ろした。
「<天童博士>、実は……」
そういって<sion>は、左腕をまくり、<天童博士>にみせた。
「うむ、これは。」
<天童博士>は絶句した。
そこにはまだら模様の緑灰色の徴(しるし)があり、それ自体が静かに脈打っているようだった。
「実は私、大地から湧き出るように出現した魔人を斬りました。そのとき、左腕にけがをして、その傷口に魔人の血が染み込んだようです。」
「うむ。」
<天童博士>は顔面蒼白で、考え込み始めた。
「次に、私は<江藤>君のお祖母さんが入院していた病院で、緑の怪物を斬ったのですが、そのときこの傷がうずくように痛み、幻聴と思われる声を聞きました。事件の背後にいた悪人と思われる人の心の声でした。」
「恐ろしいことだ。それは恐ろしいことだよ、<sion>君。
確かに古い魔道書を読んでいると、このような刻印が身体に現れることもなきにしもあらずだが、これは極めて稀有な例と言わねばならない。
たとえば、聖痕といわれるものがある。熱心なキリスト者の身体に、十字架に処せられたキリストとおなじ傷が現れ、キリストと同じ苦痛を味わうという例がある。
しかし、こんな事例はめったにないことだ。
しかも、君の話を聞くと、どうやらそれは闇の勢力とかかわりがあるようだ。」
「これは直るのでしょうか。悪人の心の声が聞こえるようになったということは、私は汚れてしまったということなのでしょうか。私は、あのとき緑の怪物を斬りながら、悪への憐れみも同時に感じていたのです。」
「うーむ。わからん。わからんよ。私にもその刻印の消し方は。それから、<私は汚れてしまったのではないか>ということだが、私は<sion>君を信じるよ。そんなことで、穢されたりしないと信じているよ。
<sion>君。人には宿命というものがあるようだ。あるいは、自分の敵対する悪の気持ちが分かるというのも、君の宿命であるのかも知れない。
これにもなにか意味があると考えるしかないな。
あるいは、人にはわからんが、なにものかが壮大な意図をもって、<sion>君に悪の気持ちがわかるように仕組んだんだと。」
<天童博士>は口を噤んだ。なにやら、さらに考えているようにみえる。
<sion>は<天童博士>のいった<意味>という言葉を、反芻していた。

夕暮れが見える。
「やはり、明日の朝、君と<江藤>君は行ってしまうんだね。生きる場所を確保するためには、闘うしかない、か。」
<天童博士>は、しんみりと<sion>に語った。
「私は君のお父さんから、自分の身に何かあったら、娘の<sion>を頼むと言われてきた。だから、困ったことがあったら、いつでもここに来ていいんだよ。君を守ることは、君のお父さんとの男の約束でもあるのだから。
本音をいえば、私は君を敵地にやるのは、忍びない。相手の力が圧倒的なことは、私が一番良く知っているからね。
<sion>君、この島に残る気はないか。君さえ望めば、いつまでもいてもいいのだよ。」
しかし、<sion>は微笑みながら、首を横に触り、「いいえ」の意思表示をした。
暖かい南の風に吹かれて、少女の黒髪がなびいている。
「そうか。そういうだろうと思っていたよ。
君のような若い人が、こんな離れ小島で、隠遁生活を送るわけにもいかないからなぁ。
しかし、私が危惧するのは、君はお父さんとお母さんの仇を討つために敵地に乗り込もうとしているのじゃないか、ということだ。」
その言葉を聞いて、<sion>の表情がとたんに曇った。
眉をひそめて、哀しげな視線で、<天童博士>を見つめている。
「そうなのか!
そうだとしたら、そんな愚考は止めたほうがいい。
確かに君のお父さんとお母さんは、先の魔術戦争で命を落とした。
しかし、君のお父さんは、復讐のために、君が不幸になったり、命を落とす危険に晒されることなど望んではいない!
いいか。<sion>君、敵は強大すぎるのだよ。
闇の中の権力を司るブラック・マジックの連中は、人間を超えた存在だし、<ニッポン国>の権力の中枢と結びついた刑殺は、法によるコントロールを超えた存在だ。」
だが、<sion>は<天童博士>の話を、それ以上聴こうとせず、背中を向けて、黄昏れてゆく夏の海を見つめていた。
# by rhizome_1 | 2004-08-26 16:24 | 創作

空の饗宴(13)

「ようやく、意識が戻ったようだね。」
<天童尚巳博士>が、にこにこ微笑んだ。<sion>によると、<天童尚巳博士>は別名<ニコヨン博士>とも言うらしい。
ゆっくりと眼を開いた祖母は、なにやら話しかけようとする。
「水が欲しいんだね。」
ぼくは祖母の口元に水差しをやった。
「どうやら、あの大学病院では、相当強い薬をやっていたようだ。データを取るための試験薬を投与していた疑いがある。<江藤>君によると、十分なインフォームド・コンセントがなされていなかったようだ。しかも、この薬は、必ずしも患者の回復にはつながらず、逆に自己治癒能力を阻害していたようだ。」
<ニコヨン博士>は、温厚そうな表情ながら、現代の医療に関しては手厳しい。
「<天童博士>は、パパの昔からの知り合いなの。パパは『困ったことがあったら、いつでも<天童博士>のもとに行きなさい。』と言っていた。もしかして、パパは早すぎる死を予感していたのかも知れない。<天童博士>は、西洋医学の最先端を究めた人で、医学界では知らない人はいない人なの。でも、西洋医学が唯物科学に偏ったもので、化学療法のほとんどは対処療法に過ぎず、人間の精神的なものや霊的なものを見ようとしていないし、自己治癒能力を信じていないとして、東洋医学のみならずオカルト生理学を取り入れた独自の医学体系を打ち出そうとして、学会から異端視され、大学から追われた人なの。現在、医学界では<天童博士>は、初期の西洋医学に基づいた最先端医療の研究は正しかったが、後期は非科学的なオカルトに耽り、だめになったといわれている。だけど、私は行き過ぎた唯物科学の偏向を修正する重要な人物だと思うの。」と<sion>は語った。
<ニコヨン博士>は、「買いかぶりすぎだよ」と笑いながら、改めて真顔になり、「今後の治療は、全面的に僕がバックアップするから、お祖母さんはしばらくここにいるようにした方がいい。ここならば、<連中>も気づくことはないだろう。」といって笑った。
窓の外には、海底が映っている。そう、ここは海の底なのだ。
深い青い海の世界に、魚の群れが見える。魚たちは、群れ全体がひとつの生物であるかのように動き、窓の外で渦を描いている。そして、地上からの光を浴びて、白く輝いてみえる。
医学だけでなく、万学に秀でた<天童尚巳博士>が開発したのが、この人工島である。海面より上は、ここは無人島にみえる。しかし、海底は機械仕掛けになっており、動力で島を移動させることができる。要するに、ここは巨大な潜水艦なのだ。
この人工島には、<天童尚巳博士>に傾倒した多くの人々が、働いている。彼らは、地上では失踪者である。しかしながら、本当は<天童尚巳博士>という偉大な頭脳の周りに集まり、一種のコミューンを形成している。
「<天童尚巳博士>は、最初、医学分野から唯物科学に反旗を翻した。患者の治療という観点から、唯物科学では不十分だと考えたの。そして、東洋医学の<気>の考え方や、自然魔術の考え方を取り入れるようになった。
しかし、自明の理と考えられた唯物科学に異議を唱えた瞬間から、<天童博士>の周りに何者かの監視がつくようになった。そして、この監視は少なくともふたつの勢力によるものだということが分かった。
ひとつは、刑殺という国家の意思を代行する超法規的な組織。この組織は秘密組織なので、わからない部分が多い。ただ、どうやらこの組織の狙いは、国民を畜群のまま覚醒させることなく、できるだけ効率よく管理することにあることはわかる。つまり、<天童博士>の唱える認識の革命は、人々の覚醒を引き起こす可能性があるため、排除の対象になったみたいね。<天童博士>のその後の調査によると、この組織はドラッグを使ったマインド・コントロールの研究をしていて、人間を長期の感覚遮断状態にしておいて、遠方からテレパシーを送ることにより、殺人マシーンに変える方法などを開発しているらしいの。どうも<ニッポン国>の狙いは、国民全体を戦争に駆り立て、かつての<帝国>の夢を実現しようとすることにあるらしい。
さらに、<天童博士>には敵がいて、これは黒魔術の勢力らしい。どうも、黒魔術勢力は、<ニッポン国>とも対立しているようだけど、その実態は刑殺以上によくわからない。<天童博士>の研究している自然魔術が、愛のためにつくられた体系なのに対し、この黒魔術勢力は、憎悪のためにつくられた体系を有している。つまり、<天童博士>と黒魔術勢力は、方向性からして違うわけ。
だから、<天童博士>のいう連中とは、刑殺と黒魔術勢力と両方を指すわけね。」
<sion>によると、どうやら<天童博士>は、ぼくたちと同じポジションにいるようだ。
刑殺に追われる<天童博士>には、地上に住む場所がない。
そして、ぼくたちもまた刑殺に追われる立場であり、安全な場所というものは、すでに奪われている。学校や自宅に帰還することなど、できはしないのだ。
それでも、ぼくたちはあきらめてはいない。もういちど、地上にひとつの場所を見出すために戦い続けると決意したのだ。
# by rhizome_1 | 2004-08-24 14:46 | 創作

空の饗宴(12)

「君の研究成果については、研究機関である附属病院から自宅に至るまで調査させてもらったよ。君の書いた論文やCD-ROM、MO、FDは、すべてわれわれの管理下にある。つまり、われわれは君が考えていたことを、すべて掌握しているということだわれわれは君の頭脳なしに、すでにアレを製造することが可能だ。しかし、君はアレの暴走を未然に予見できなかったのかね。あのままいけば、君自身がアレの餌食となり、癌化した巨大の細胞のかたまりとなっていたに違いない。」
男は、相手の反応を伺う。だが、相手はうなだれたままである。
「まぁ、いい。とにかく、あの研究は君の手から離れたのだ。遠からぬうちに、アレはわれわれの手によって、手駒のひとつとなるだろう。君のような素人には分からないだろうが、あのような生物兵器を開発するときは、世間一般と完全に隔離された閉鎖空間でなされるのが普通だ。アレの暴走を食い止めるための科学の檻が必要なのだ。あのような生物兵器に関しては、実はコントロールと情報管理が最も重要なのだ。君のような飼い犬に手を噛まれるかもしれない状況の下での研究などというものは、考えられない非常識だ。また、生物兵器である以上、敵国は勿論、民間人にも情報が漏れてはならないことだ。……君もうすうす承知しているとは思うが、われわれの手によって、あの事故は単なるぼや騒ぎとして処理された。事実を知っている可能性がある病院関係者や、病院への来訪者は、われわれの手で始末させてもらった。つまり、死人に口なし、ということだ。われわれは、あの事故を捜査し、あの事故が尋常ならざるものであることを知った。多くは焼き払われていたが、獰猛な細胞のサンプルをごくわずかだが採取することが出来た。この細胞は、われわれの科学研究所で、すぐさま調べられ、あらゆる生物種を例外なく摂取し、癌細胞化したうえで、自己の一部として肥大する性質をもった生物兵器であることを確認した。科学的調査とは別に、われわれはこの放火の原因となった外来者がいるらしいことをつかんだ。われわれの調査では、この外来者は高校生くらいの年齢の少女であることを掴んだ。だが、残念なことに、今のところ、この少女の正体を特定しきれていない。同時に、事故のあった病棟から、高齢の老女の入院患者と、その付き添いが消えていることがわかった。こちらの方は、氏名は特定できている。われわれはこの失踪者が、謎の少女と関連がある可能性があるとみて、捜査を続けている。ところで、君はこの事故の際に、そのような少女を見なかったかね。われわれは事件関係者を残らず、潰しておきたいのだ。理由は勿論、殺人兵器の情報を独占し、わが国の切り札にするためだ。いいかね、知っていることは全部話すことだ。われわれに逆らっても、無駄なことだ。われわれには殺人も含め、一切が認められている。君は、われわれのことを警察と間違えているようだが、わけわれは処刑の刑に殺すと書いて、刑殺だ。われわれ刑殺は、公には明らかにされていないが、<KOIZUMI>が認めたこの国の意思の代行者であり、超法規的な殺戮行為が全面的に許されていたプロフェッショナル集団だ。法の下で業務を遂行する愚昧な警察どもとは、格が違う。……よし、よし、われわれの恐ろしさが分かってきたようだな。それでよし。で、改めて聞くが、君はあの事故のさなか、不審な少女を見なかったか。また、君の研究成果を他に知るものはいなかったかね。」
尋問を受けた<杉澤>は、恐怖感で口をパクパクさせながら、あのときのことを考えた。あのとき、確かに剣を振るう少女を見た。だが、あの火災がなぜ起きたのか、<杉澤>には分からなかった。化け物の背後でよく見えなかったこともある。また、科学を信じるものにとって、理解を絶することが起きたからでもある。
科学者のはしくれとして<杉澤>は、科学による理解を超えたものは、存在しないとすることに決めていた。それが、<杉澤>の科学という宗教であった。
「少女は……」
<杉澤>が語り始めた。取調べ官は、<杉澤>の言葉に耳を澄ませた。
「少女は……いたが、……火災は起きなかった。火災は起きたが……少女とは関係がない。」
「少女の名前はどうなんだ。聞いたのか、どうなのか。」
頭の中で、さまざまな情報が飛び交ってゆく。確かに、あのとき聞いたような気もするが、聞いていないような気もする。
「少女の名前は……聞かなかった。」
<杉澤>にとって、聞いたかどうか記憶が曖昧なことを認めることは、途方もない屈辱であった。だから、覚えていないではなく、聞かなかったという答えになったのだ。
そのとき<杉澤>の頭の片隅を、事故の際に傍らにいながら、いつのまにか煙のように消えた長身の人物の記憶が掠めた。だが、あの人物は、存在していたのか。存在と非在の中間、生と死の中間などというものは、シュレディンガーの猫ならともかく、この世界ではありえないことだ。ありえないことは、はじめから存在しないことだ。<杉澤>はにんまりと微笑んだ。
取調べ官は、そのとき用済みで、知りすぎたこの男を、アレの餌食にしようと、すでに決めていた。
# by rhizome_1 | 2004-08-20 22:03 | 創作

私のお気に入り

# by rhizome_1 | 2004-08-15 22:17 | リンク集

空の饗宴(11)

「おい、お前。そんなところに寝て。邪魔なんだが。」
そういって<sion>は、気絶しかけたぼくの横腹に蹴りを入れた。なおも、朦朧とするぼくに<sion>は、パラソルを突きつけ
「お前は、これを持って、どっかへ行け。オレは片腕で持ちにくいんだ。」といった。
<sion>は、魔人との戦いで傷ついた左腕を包帯で吊り下げている。
ぼくは事情を察し、パラソルをもった。なんてことだ。<sion>と一緒のときは、いつもわけのわかんない化け物がいて、ぼくはいつも役立たずで、ちっともかっこいいところを見せることができず、ぶざまに逃げ惑うしかなかった。
なにより少女に守ってもらうこと自体が、みじめたらしく思えた。かといって、その場に留まれば、足手まといになり、かえって<sion>を苦境に陥らせることはわかっていた。
「ちっ。江藤。さっさと消えな!邪魔なんだよ。お前がいると、思い存分、戦えねぇ。」といいつつ、すでに<sion>の日本刀は化け物の触手に伸びていた。その速いこと。サッと閃光が煌くたびに、怪物の触手がつぎつぎと切断されてゆく。そのたびに、揺れ動くゴシック・ロリータのドレスのすそが、さながら蝶のように優雅にみえる。
だが、切断された怪物の触手は、緑色の粘液を出しながら、廊下でくねくねとくゆらせ、なおも蠢き続けている。
「あっ。」
切り落とされた怪物の触手が、ぼくの近くに落ちた。切り落とされたそれは、薄く長く延び、ぼくに近づいてきた。
しばらく逡巡していたぼくだが、退散するしかなかった。
<sion>の剣は、次第に怪物の本体に迫りつつあるが、切断された触手は、本体部分に接触すると、再び融合するようだ。
「これじゃ、ちっとも埒があかねぇ。」
<sion>は、再び日本刀を持って、身構えた。そして呪文を唱え始めた。
「火の霊サラマンダー、我に力を与え、邪悪な怪物を焼き尽くせ!」
そして燃え上がる剣で、怪物に再び切り込みをかけた。
火の霊サラマンダーの力を借りた剣によって切断された触手は、一瞬のうちに炭化し、再び活動し始めることはなくなった。
紅蓮の炎が、あたりを焼き尽くす。
「ちっ、急所はどこだ。」
<sion>の声に、ぼくは緑の怪物を直視した。いやらしい無限の触手が蠢く本体は、見るだけでおぞましく、ぞっとさせるものだ。
「あっ。」
ぼくは緑の怪物の中心部に赤く光るコアを見た。
「あそこだ。ちょうど、中心にコアがある。」
「えっ。」
<sion>は少し驚いた表情をした。
「お前、見えるのか。そうか、中心だな。」
<sion>は次々と伸びてくる触手を切り落としながら、怪物の中心に進んでゆく。
「もう少し、もう少しだ。」
だが、あと一歩と迫ったところで、<sion>の動きが止まった。
「うっ。」
どうしたというのだ。剣から炎が消え、<sion>は左腕を押さえる。
「なんだ。この痛みは。」
そういっている間にも、<sion>の剣に怪物の触手が伸びる。
「畜生。」
<sion>は歯を食いしばって、左腕の包帯をほどく。
「なんだ。これは。」
傷口のまわりが、灰緑色になり、脈動している。嫌な記憶が蘇る。魔人を倒したときに、傷口に魔人の灰緑の血が落ち、染み込んだのではないか。
傷口の周りのあざの脈動は、完全に<sion>の心臓の鼓動と一致していた。
「なんだ。こりゃ。」
変な声がする。幻聴だ。
<俺の気持ちもわからないくせに。この怪物をつくるにいたった俺の気持ちもわからないくせに。なんだというのか。俺は長い間、周りのエリートどもに侮辱されてきた。この怪物は、あのエリートどもへの俺の憎しみがこもっているんだ。なにが、学閥だ。なにが、学者の家柄だ。確かに俺にはそれがない。そうだからって、なんだというのだ。俺には世界を蹂躙することができる怪物をつくりだすことができる能力があるんだぞ。お前たちのもっている社会的な地位や評価など、俺がこの怪物を放つだけで、一挙に吹き飛ぶんだぞ。ひざまづくがいい。俺をさんざん馬鹿にしてきたエリートどもよ。>
頭が割れるように痛い。割り込んでくる。自分以外の声が。なんてことだろう。邪悪な憎しみに満ちた声だ。自分は汚れちまったのか。こんな声が聞こえるようになったなんて。なんだ。泣いているのか。自分は泣いているのか。なにのために。悪のためにか。
畜生。この怪物の核に近づこうとすればするほど、この怪物に込められた思いが読み取れてしまう。
そういうことだったのか。この左腕のあざの意味は。
「<sion>!」
<江藤蘭世>の声がして、我に変える。だめだ。あいつに込められた思いがそうだとしても、あいつはすでに人を呑み込んでいる。
「人を殺してるんだっー!」
その瞬間、日本刀から稲光が発せられ、鋭い閃光の線が怪物のコアに向かって振り下ろされてゆく。
怪物は中心から真っ二つに割れ、燃え上がった。
どっと哀しみがこみ上げてきた。なんだろう。人はなぜ悪をつくりあげてしまうのだろう。短い命だというのに、なぜ他人の命を奪おうとするのだろう。なぜ、なぜ?
何に泣いているというわけでもなかった。<sion>の中で、世界は哀しみ色に染め上げられた。それは慈しみの色でもあった。
# by rhizome_1 | 2004-08-15 17:46 | 創作

空の饗宴(10)

寝苦しい夜だ。仮眠をとらないと横になったものの、眼が冴えて、寝付かれない。
寝返りをうつ。
天井に映る影が、動いている。
月明かりに照らされて、病院の横の楠の影が映っているのだ。
周りの些細なことが気になって、時間が経つのが遅く感じられる。
祖母の寝息を確かめる。大丈夫だ。そうやって、自分がまだ一人じゃないことを確認する。
このままどうなってしまうのだろう。三ヵ月後、あるいは半年後、現在の自分を笑って振り返ることができるのだろうか。わからない。まったくわからないのだ。
明日が見えない。
医者は脳の障害は極めて軽度であり、歩行障害などは残るだろうが、意識は近いうちに戻るだろうという。しかし、医学の見立ては、経験則に基づく確率的な話であり、絶対にそうであるかどうかはわからない。具体的に今を生きる自分にとって、絶対的な安心を与えてくれるものではない。
そもそも、この世界に絶対などというものがあるのだろうか。
信心深いキリスト教徒ならば、「ある」と答えるかも知れない。だが、自分にはそんな確信をもっていえる絶対などというものはない。
だめだ。少しは眠らないと、身体がもたないというのに、頭は冴えてくるばかりだ。
祖母の様子に異変がないことを確かめ、もう一度トイレに行くことにする。
静かに病室のドアを開け、廊下に出る。
病室と比べ、なにか肌寒いかんじがする。足元が、ひんやりする感覚を覚える。
真夜中の病院の長い廊下は、なぜか不安な感じがする。白一色の殺風景なつくりだからだろうか。それとも消毒液のほのかな匂いのせいだろうか。「非常用」と書かれた緑のランプが光っている。月明かりのせいで、幸い廊下は向こうまで見渡せる。
トイレに入り、用を済ませる。クレゾール液で消毒し、手を洗う。蛇口を固く閉めるが、ぴちゃり、ぴちゃりという音が止まらない。水道のパッキンが劣化しているのだろうか。
不意に悪寒がして、ぶるぶると背中をふるわせる。ふたたび、病室に戻るために、廊下に出る。
なにかじめじめした水の匂いがする。かすかに鉄の匂いも混じっているようだ。
ぐちゃり、なにかを踏みつけた音がする。
足元を確かめる。よく見えないが、ゼラチン状のもののように見える。どうして、こんなところに、こんなものが。
どうやら第一研究室と書かれたドアの下から、それは漏れ出しているようだ。一体、これは何なのだ。
闇のなかにふたりの黒い影を認める。ひとりは医師と思われる白衣の男、もうひとりは外国人と思われる彫の深い眼をした長身の男。
銀縁眼鏡をつけた長身の男が、ニヤリと笑い、
「見てしまいましたね。」
といった。
その瞬間、自分がとんでもない世界に巻き込まれていることに気づく。これは近づいてはならない禁忌の世界だ。そう直感したぼくは、その場から逃げ出そうとした。
靴についたゼラチン状のものが離れない。そいつは、あっという間に巨大なものに膨れ上がり、病院の廊下が塞がるまでに大きくなった。月の明かりで、そいつはぬらぬらと表面が光っているのがわかる。
全速力で走りながら、ぼくは振り返る。そいつの身体に、水滴をミルクの入ったコップに落とした時のような王冠がいくつも出来、その王冠の中から触手が飛び出てくるのが分かる。
だめだ。これ以上、早く走ることが出来ない。触手は何百、何千にも及ぶ。そいつは間違いなく自分を食おうとしている。
薄らいでゆく意識の中で、ぼくは不思議なものを見た。廊下の彼方に、パラソルを広げたゴシック・ロリータの少女が立っていた。少女は、
「どうやら遅すぎたようね。」と言うと、パラソルを窄めた。そして、カチリと音をたてて、パラソルの柄の部分を持って、パラソルから仕込み刀を引き抜いた。
「関の孫六。」
ぼくはそうつぶやいて、その場に倒れた。
# by rhizome_1 | 2004-08-08 14:15 | 創作

空の饗宴(9)

「クククッ」
<三毛猫室長>は、ガラスケースの中の緑の塊をピンセットでつまみあげると、<Keen>の口を開き、そこのなかに入れた。
そして、コップに水を注ぎ、<Keen>の口に水を無理やり流し込んだ。
その瞬間、ゴボッという音がして、<Keen>の体が反応した。
「ややっ。これはいい。こいつ、まだ生きてるぞ。」
<三毛猫室長>は、<杉澤鷹里>を振り返った。
「お前、本当にヤブだなぁ。生きてるか、死んでるかの区別もつかんのか。」
<杉澤教授>は尻餅をついたまま、立てずにいた。足ががくがく震えて、立てないのだ。
「こりゃ、傑作だ。いかの踊り食いは、食ったことがあるが、人間が悶え苦しみながら死んでゆく姿を見るのは、なんともいえないエンターテイメントだ。そうとは思わんかね、<杉澤くん>」
死んだと思われた<Keen>は、息を吹き返し、額から脂汗を流しながら、さかんに身もだえをしはじめた。はらわたの中を食われていると見えて、拒否の意思を示すためか首を横に振り続ける。
白衣が汗まみれで、体にまとわりついている。
口からは声が漏れるが、「うぐぅー、ぐぐぅー」と何を言おうとしているのか、判別がつかない。
「止めてくれ。」
<杉澤>は頭を抱えながら、<三毛猫室長>に懇願する。
そんな<杉澤鷹里>を、<三毛猫室長>は侮蔑するように見下ろす。
「<杉澤さーん>、なにを言ってるんですが。どーせ、こん女はあんたが一度殺した女じゃありませんか。私は確実に二度目の殺害を行っているだけですよ。」
<杉澤>は、<三毛猫室長>の足元にすがりつこうとする。
「くだらん。そんな人間的感情なんて、早く捨ててしまうことですよ。」
<三毛猫室長>は、まとわりつく<杉澤鷹里>を蹴り倒した。
「われわれは、あなたの人間の条件を超えた地点に辿り着こうとする研究に、評価をしていたのですよ。われわれは、世界各地にアンテナを張り巡らし、人間への悪意をひとつの力にまとめあげようとしているんです。そのなかで、あなたの研究は、人類を危機に導く可能性をはらんだ興味深い研究だった。それがなんです、人間の命のひとつやふたつ、それがなんだというのです。それとも<杉澤さん>、あなたも教授というメッキを剥がしたら、ただのヒトですか。」
<三毛猫室長>は、ぞっとするような笑みを浮かべた。
そうしている間に、<Keen>は血を吐いた。だが、活性化した緑の生き物は、<Keen>の口から、さっと触手を伸ばし、その血を吸い取り、いやらしい蠕動運動を行った。
かつて<Keen>と呼ばれた身体は、悪魔に乗っ取られてしまっていた。皮膚のあちこちが膨れ上がっている。悪魔が表面に顔をのぞかせようとしているのだ。
やがて<Keen>の毛穴という毛穴から、緑の粘液が染み出て、その液が<Keen>の身体を溶かしていった。
# by rhizome_1 | 2004-08-07 21:34 | 創作

空の饗宴(8)

「来週の木曜日、第一内科の<久世樹教授>は、新薬の臨床データを基にした研究成果を学会で発表されるというのに、<杉澤教授>は相変わらず蛙の畸形種の研究ですか。」
からかい混じりのセリフの中に、シニカルな態度がみてとれる。やはり、この女は私の才能のなさを侮蔑しているのだ。
この女との付き合いは、何年になるのだろう。私の能力をまったく信用しない女。そして、私の研究のねらいを、まったく理解しようとしない女。こんな助手をもったおかげで、私の偉大な研究が立ち遅れているのだ。
私は無視をして、背中を向けたままガラスケースの中の観察を続ける。緑の細胞のかたまりが、蛙を捕食しているのがわかる。
「センセ、それは何ですか。今度は銭亀ですか。」
<Keen>と名乗る助手は、相変わらず私を嘲弄するような口の利き方をする。
「なに、その緑色の化け物。気持ち悪っー。」
私の背後から、<Keen>はガラスケースの中を覗き込み、あろうことか金属棒でガラスケースの中の生き物をつつき始めた。
「なっ、なにをする。これは私の画期的な研究の成果なんだぞ。」
「なによ。こんな毬藻みたいなアメーバ。これが、医学の発展となんの関係があるんですか。こんなことばっかりやっているから、センセはいつまでも評価されないんですよ。医学者たるもの、人々の健康増進のための研究をしなくちゃだめですよ。」
「なにを言うか。お前には、私の純粋な科学的探究の意味がわかっていないんだ。お前は、いつも健康だとか、病気治癒だとか、衛生思想の向上だとかを唱え、そういう目的のための学問しか認めない。そして、私の研究を虚学だと侮蔑する。いいか、学者は、学問自体の楽しみのために研究するんだ。お前の言っている健康だとか、病気治癒だとかは、そのおまけでついてくるだけなんだ。私は、自分の研究を世の中のためだとか、人類のためにやっているんじゃない。自分の研究のためなら、常識やモラルや、さらには人類の未来だって踏みにじってもいいとさえ思っているのだ。」
私は<Keen>の首を絞める。<Keen>は、私をなにか理解できない異常なもののように見つめている。
激しく揺さぶると、<Keen>の眼鏡が床に落ちた。その眼鏡を私は踏みつけてしまう。
こうして眼鏡のない顔を見て、この女が美女の部類に入ることに気づく。だが、その完璧さすら、自分を拒絶しているようにみえる。私はさらに力を込める。
途端に<Keen>はぐったりとして、崩れ落ちる。美しかった顔も、緩んで、ぐにゃりと崩れてしまった。
それを見て、私は自分のしたことの意味を把握する。どうしたというのか。<Keen>の肩を持って、揺さぶるが<Keen>は目覚めない。死んだというのか。そんな馬鹿な。瞳孔を確認し、脈拍を診る。そんな馬鹿なことがあっていいのか。この私が、人を殺したというのか。どうしたらいいんだ。自分はどうなるのか。画期的な研究が実を結ぼうとしていたというのに。そんな馬鹿な。えっ、こんなことで破滅していいのか。私は将来科学史に名を残す人物なんだぞ。こんな死体のせいで、破滅するなんて、どうかしている。死体を隠さねば。
私はきょろきょろと、あたりを見回す。
物音がする。
えっ、お前は誰だ。いつからそこにいた?
私の背後に、ひとりの男が立っているのに気づく。
先ほどから、この部屋に入ってきたものはいない。とすれば、この男は、今起きた一部始終を見ていたのか。
「お前は誰だ。」
「<三毛猫室長>ですよ。」慇懃無礼な態度で、<三毛猫室長>と名乗る男は、優雅に会釈をした。
「<黒猫館>から参上しました。あなたのことは存じ上げております。あなたの研究は、暗黒世界の扉を開く画期的なもの。いいではありませんか。死体のひとつやふたつ。あれの餌食にすればいいだけですよ。」
男はガラスケースの中を指し示した。捕食とともに、正常細胞を癌化させ、自身の体の一部に変えてゆく化け物の入ったガラスケースの中を。
# by rhizome_1 | 2004-08-07 07:31 | 創作

空の饗宴(7)

扉を開けると、轟音の渦だった。
赤・黄・青……めまぐるしく様々な色彩が交錯する。流れているのは、今流行の<ラッコ堂>のラップ・ミュージックである。
<ラッコ堂>の<ガンダルフよ、どこへ行く>は、インディーズ・レーベルの<迂路堀ミュージック>から発売された楽曲であるにもかかわらず、ヒットチャートのベスト3にランク・インした。<ラッコ堂>の楽曲は、メロディアスでありながら、その歌詞に強いメッセージが込められていた。
<ガンダルフよ、どこへ行く>は、ガンダルフの冒険譚に仮託しながら、ほんとうの自分自身の世界を探すことが重要なのだよ、と優しく語りかけるという歌詞になっている。
また、<ラッコ堂>には、ライヴでしかやらない<ZEN>という曲がある。この曲は、道元の『正法眼蔵』を朗読した音源を、サンプリングしてつくられている。
ブースの中で、<ラッコ堂>の<ガンダルフよ、どこへ行く>をかけながら、スクラッチしているのは、<DJピルパグ>である。
<ラッコ堂>のグルーヴ感のある音楽に酔いしれながら、最先端のファッションに身を包んだ男女が、オールで踊っている。
暗闇のなかで、男が女にささやきかけ、グラスの中にカプセルを落とす。ナノテクで造られた新型ドラッグである。このカプセルには、マイクロのマシーンが収められており、直接神経のレセプターに作用し、麻薬と同様の効果を及ぼす。しかし、化学薬品と違い、この新型ドラッグを取り締まる法律は、今のところ存在しない。法律が現実に追いついていかないのだ。
しかし、sionがこのダンス・テリアを訪れたのは、踊り明かすためでも、一夜限りの恋のためでもない。<DJピルパグ>に会うためであった。
<DJピルパグ>とは表社会でのコードネームである。裏社会では<情報屋のステラ>と呼ばれている。sionは、<黒猫館>について何か情報はないかと、<情報屋のステラ>に頼んでおいたのだ。
「やぁ、sion。待たせたね。」
<情報屋のステラ>が語りかけてきた。凄まじい音響のせいで、ほとんど聞き取れない。唇の動きから、かろうじて判別できる。しかし、秘密保持のためには、この方がいいのだ。
「<黒猫館>とは、君も酔狂だね。あんなのに首をつっこんだら、短命に終わること間違いなしだ。」
<情報屋のステラ>は軽口を叩く。
sionは、いらつきながら話を急かす。
「<黒猫館>には、一応<黒猫館館長>といわれる人物と、館長夫人といわれる<影姫青夜>という人物がいる。<黒猫館>は、ある道すじの人にはよく知られていてね、館内には古今東西から集められたエロ・グロ・ナンセンスの珍品が集められており、エジプトのミイラだとか、吸血鬼の剥製だとか、冷凍保存された人狼の死体とかが集められており、金持ちの道楽者がこれを見にやってくる。ただし、これは「一見さん、お断り」の世界であって、推薦者なしには立ち入りできない世界なんだ。しかし、<黒猫館>の秘密はそれだけじゃない。<黒猫館>の秘宝を見るのも限られた人間だが、さらにその中でもひとにぎりの人間だけが、地下室に入ることができる。どうやら地下室には座敷があり、一週間に一度、SMパーティーが開かれているらしい。入室者は、アイマスクをつけているから、入室者どおしは互いに正体を知ることはない。すべてを掌握しているのは、館長夫人といわれる<影姫青夜>だけらしい。ここまでが、裏の裏だ。ここまでを知るだけでも、結構危ない目にあったんだぜ。」
この社会は、すべて情報として管理されている。中央のコンピュータに掌握されていない世界は存在しない。それは<黒猫館>の地下室といえども例外ではない。もしも、中央のコンピュータに掌握されていないのならば、セントラル・ヒーティングや照明などもままならないことになる。<情報屋のステラ>は、この中央のコンピュータにハッキングをする。勿論、幾重にも張り巡らされたセキュリティーの壁を突破する必要がある。仮に、ハッキングがバレた場合、即座に刑殺官がハッカーの元に向かうことになる。
「だが、驚くな。これすら、<黒猫館>の真実に迫ろうとするものに仕掛けられたダミーのデータに過ぎない。その<地下>には、さらなる<地下>があるらしいのだ。」
その瞬間、ダンス・テリアの照明が消えた。誰かが、「刑殺だ!」と叫んだ。
「やべっ。消されるのは俺だ。」
<情報屋のステラ>は立ち上がった。
「いいか。sion。君みたいなSweetなBabyは、<黒猫館>や<珍楼病院>なんかに近づいちゃだめだ。あそこは悪の巣窟だ。じゃあな。あばよ。」
そのまま<情報屋のステラ>は、雑踏の中に消えた。
左腕の傷がうずく。sionは左腕を押さえながら、<珍楼病院>という言葉を反芻していた。<珍楼病院>?確か、江藤が……。
# by rhizome_1 | 2004-08-07 07:31 | 創作

空の饗宴(6)

癌細胞は、われわれの<不死>への欲望が具現化したものである。
癌細胞は、DNAによる自死プログラムが働いていない細胞といえる。癌細胞は、アポトーシスの機能不全に陥っているのである。正常な細胞では、アポトーシスの機能によって、生命全体のかたちにとって不要な部分を、自動的に<自死=壊死>させ、その生命体の外部にあるものとして切り落とす。ところが、癌細胞は、生命全体のかたちを維持することよりも、自身の<不死>を第一に置く。結果として、全体性を無視した際限のない増殖を繰り返し、生命維持の機能にダメージを与え、最終的に生命体を<死>に至らしめる。
生命体の<死>は、性の分化と無縁ではない。屋久島の縄文杉は、科学的な調査によっても樹齢2000年以上は確かだという。このように性が分化していない植物においては、生命の障害となる疾病等が起きない限り、理屈の上では<不死>である。生命体の<死>は、男性/女性というふうに性が分化した時から始まったのである。
つまり、性を分化させることは、次世代を誕生させる際に、遺伝情報をシャッフルさせて、さまざまなヴァリエーションの遺伝情報を有する個体を誕生させることと同義である。ヴァライティーに富んだ個体であれば、環境の変化があったとしても、どれかが生き残ることができるというメリットがある。言い換えれば、種の<不死>のために、個体の<死>を容認したのである。
しかしながら、個体といえども、<不死>への願望が根底にはある。単に種の<不死>のために断念しているに過ぎないのだ。
癌細胞は、種の維持や、個体の維持のためのプログラムを無視する無法者であるが、その癌細胞を発生させたものは、個体の奥底にある<不死>への度し難い願望なのだ。癌の発生原因は、コールタールを繰り返し塗るなどの化学的刺激や、放射線や、遺伝情報を改ざんする癌ウィルスによるものが考えられる。これらの理由により、アポトーシスが機能しなくなったことにより、正常細胞が癌細胞に変異する。つまり、歯止めさえなれば、正常細胞は<不死>をめざすということだ。
自分の研究テーマは、不死人をつくることだ。そのために、癌とアポトーシスに絞った実験を繰り返している。今、ここにあるのは、多指症のホルマリン漬け人体標本や、プラスティネーション標本である。多指症とは、アポトーシス不全による病である。
私は助教授の頃、血管や骨や筋肉になる前の未分化の間葉組織に注目して、この間葉組織を基盤に定着させ、そこから耳などの組織を大量に生産する方法を定式化させた。この方法によってつくられたさまざまな人体のパーツを、さまざまな欠損を持った人々に移植することで、治療を図るのが目的である。これらの一部は、すでに産業化されているが、私に言わせれば、まだ序の口である。
最終的に不死人をつくるのでなければ、私の人生はなんだったといえるのか。幸い、この病院は多指症や、さまざまな癌の標本を採るのに不自由がない。付属病院勤務とはいえ、私の職務はもっぱら研究にあり、患者の対応は私の弟子たちがやってくれる。
学生のころ、私の関心領域は広く、文学や社会学への知識欲もあり、それ関係のネット・サーフィンもよく行った。そんな中で、インターネット上の掲示板で知り合った「はらぴょん」という名前のハンドル・ネームの男が思い出される。彼は、変わり者の現代思想おたくで、<破壊(ディストラクション)>と<脱構築(ディコンストラクション)>は違う、と力説し、他の掲示板投稿者から顰蹙を買っていた。
癌細胞を生命体の<破壊>に例えるなら、私の造ろうとしている不死人は生命体の<脱構築>だ。死という決定的な<破壊>にいたるぎりぎりの瀬戸際で、個体を維持させ、地上の永生を実現してしまうこと。ふつふつと、奇想が沸いてくる。天才という言葉は、自分のためにあるのだと思う。
部屋の鏡に、青白いライトの光に照らされた自分の顔が映っている。白衣には、<教授 杉澤鷹里>というネームプレートがつけられている。自分も随分、歳をとったものだと思う。額には皺が刻み込まれ、髪は白髪になってしまった。
完成を急がねば。それが、どんな奇怪なものであっても、それによって自分の天才を証明するのだ。そのために、多くを犠牲にしてきたのだ。自分のことを嘲笑った多くの女たちの顔が思い出される。私の周りにいた女性たちは、エリート意識が高く、大器晩成型の私を凡庸だと言ったのだ。その私が、いまや教授のポストを手に入れた。あとは、不死人の公開こそが、私の名声を決定的なものにするだろう。
# by rhizome_1 | 2004-08-07 07:30 | 創作